好きは好きでも好き違い!?


 俺は今、走っています。全速力です。猛ダッシュです。


 言ってしまった!

 言ってしまった、言ってしまった、言ってしまった!!


 自分では、すごくさりげなく友達として……って雰囲気で伝えられたと思ったんだ。



 なのにさ、なのにさ、なのにさ!


 北大路きたおおじの奴、ぽかーんとして、固まっちゃったんだよ!!



 あれ、間違いなく誤解してるよな!? 誤解されたよな!? いや誤解じゃないんだけどね!?


 で、北大路が何も答えないから、気まずさに耐えられなくなって、ものすごくぎこちない声でまた明日なーっつって、ものすごくぎこちない動きでその場から帰るフリをして、現在に至るというわけだ。



 やばい、やばいやばいやばい!


 友達としてだぞ? って付け加えるべきだったか!? でも取ってつけたような感じにしかならない気が……ああ、それでもいいから、ちゃんと言っとくんだったーー!!


 後悔しても、もう遅い。後悔という字は、後で悔やむと書くんだ。まさに今の俺だ。


 もーー!

 やっと仲直りできたと思ったら、これーー!? 俺ってどこまでバカなの!?



 めちゃくちゃに走りに走って、息切れして立ち止まってみたら、俺はまた小学校の付近にいた。


 これ、帰巣本能ってやつなのかな……ううん、違うな。何も考えずに毎日を楽しく過ごしていた小学生の頃に戻りたいって気持ちが、ここに足を向かせたんだ。ああ、あの日に帰りたい、切実に!


 同じ小学校に通っていた、高野たかのの顔が思い浮かぶ。だからといって、とてもあいつに連絡する気にはなれなかった。


 だって、何て言えばいいんだ? 北大路に好きだと言ったら、告白と勘違いされたかもしれないんだけど間違いではないから対応に困ってる、って言うのか?


 無理無理無理無理! 意味がわからなさすぎるし、高野もドン引きするわ!!


 とにかく気持ちを落ち着けようと、俺はまたまた昔よく遊んだ公園に向かった。


 街灯は一応あるにはあったけれど、電灯の中に虫やゴミなどが入り込んで汚れているせいか、ひどく暗い。おかげで公園は、鬱蒼として不気味な雰囲気だった。


 それでも構わず、俺は前と同じようにブランコに腰を下ろして頭を抱えた。



 やっちまったぁぁぁ……これ、取り返しつくのか?


 ラインでメッセージを送ってみる? しかし文面が思い付かない。


 いっそ開き直って『ちゅきちゅき♡だいちゅき♡』ってスタンプでも送信してみるか?


 思いっ切り突き抜けてしまえば、なぁんだ冗談だったのかーって笑って受け流してくれるかも。だが相手は、何でも真に受ける北大路だ。さらに誤解を深めてしまいかねない。



 誤解じゃないけど、そこはさておき、誤解ってことにしてもらいたい!



「…………ちょっと、みなみくん、足速すぎ……」

「ぎええ!?」



 荒い呼吸音と共に今一番聞きたくなかった声が降って湧いて、俺はブランコからはみ出していたむっちりケツを地面に落とした。



「き、北大路……な、何で」


「何でって、南くんがいきなり逃げてったからじゃん。追いかけるの、大変だった」



 隣のブランコに座り、北大路がしれっと答える。そんなこと聞いてるんじゃねーっての!



「南くん、誤解したかなと思って。俺、嬉しくて、声も出なくなっちゃったから」



 嬉しい、という言葉に、俺の胸が大きく高鳴った。


 いやいや、これは友達として好きでいてくれてありがとうって意味だ。勘違いするな、俺。


 そう言い聞かせ、何とか動悸を鎮めようとしたのに、北大路はさらにトドメの一撃をぶっ刺してきた。



「俺も、南くんが好きだよ」



 暗い街灯の下でも鮮やかに目を射る、華やかな笑顔を見た瞬間――――鼓動も呼吸も、止まったような気がした。



 わかってる、友達として、だ。


 だけど、嬉しい。嬉しくて嬉しくて、胸がいっぱいになって、泣きそうになった。


 好きな人に好きだと言ってもらえる――――それが、こんなに嬉しいことだとは思わなかった。



「そ、そうか。じゃ俺達、『友達として』お互いちゃんと好き合ってるってことだな。あー良かった、片思いじゃなくて。片恋は『友達』でも辛いもんだからさー」



 詰まる胸の苦しさと込み上げかける涙を堪えて、俺はわざとボケて『友達』という単語を強調した。



「うーん、友達として……っていうのはよくわからないかな。俺、友達いたことないから。何だろう、例えるなら食べ物みたいな感じ?」



 …………なのに北大路トワ、ここにきて俺をお肉扱いである!


 おかげで一気に涙も引いたわ! どーもありがとうな!

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