【第三章「武道大会開催~世界と少女を救うために~」】
第29話「武道大会開催~魔導暗殺術教師~」
あれから毎日、俺はしっかりとサキやミナミを始めとする生徒たちとトヨハの鍛錬を続けた。やはり、若いからか飲みこみが早い。
ひたすら楽しい模擬実戦をやっているのもいいのだろう。
全員が見違えるような成長を遂げていた。
そして、魔王軍はメサが俺に酷い目に遭わされたからか、あれ以来、まったく侵攻をしてこなくなった。
ちょっと遊んでやりたかったんだが、仕方ない。
まぁ、やりすぎたかもしれない。
「順調だ。順調すぎるほどに順調だ」
そして、例の武道大会は本日である。
魔王軍の侵攻がなかったおかげで、生徒たちは対人戦の鍛錬をこれでもかと積むことができた。
万全の準備ができたわけだが――これまでの戦いで研ぎ澄まされた俺の第六感が、この大会が平穏には終わらないと告げている。
「センセー! いよいよ大会ですね! あたしメチャクチャに相手の学園をぶちのめしちゃいますね!」
この鍛練で著しい成長を遂げたサキは、ブンブン腕を回して意気込んでいた。
ちなみに、今いるのは校庭の東側だ。
相手側の生徒たちは、西側に陣取っている。
ちなみに、こちらも向こうも装備は杖と黒いローブ。
公平になるように装備は限定されているのだ。
そして、問題なのは相手側の引率の教師。
黒ずくめの格好をした二十代前半ぐらいの男なのだが、目が狐のように細い。
ちなみに、こいつは魔導暗殺者だ。
隠蔽魔法を使っているが、俺の分析魔法はそんなものを打ち破る。
懐に短剣がいくつもあるのが、わかった。
なんかやっぱり、きなくさいな。
これはただの武道大会というわけではないだろう。
「先生、わたしたちになにかアドバイスはないのですか?」
ミナミが、少し不安そうな表情をしながら訊ねてきた。
「別に、いつもどおりやればいいだけだ。これまでの鍛錬で完全におまえらは通常の魔法使いの範疇を超えているからな。普通にやれば負けることはない。自信を持て」
問題は……あの胡散くさい引率教師だが、それは俺がなんとかすればいい。
サキやミナミには目の前の武道大会に集中してもらうことだ。
「おまえらビビッてるんじゃないぞ。魔導偏差値だかなんだか知らないが、そんなものまったく関係ないからな。実戦になれば絶対におまえらの魔法のほうが上だ」
まぁ、相手の生徒たちの潜在能力は思ったより高いのは俺もわかったが。
だが、古典魔法を使っているうちは絶対に俺の生徒たちに勝てないはずだ。
と、そこで……校庭にトヨハが現れた。
正装をしており、ただならぬ王族オーラを漂わせている。
この姿からは、実は露出性癖持ちのドMの変態だとは誰も思わないだろう。
「ダーノ学園の皆さま、ようこそクラギ学園へ。わたくしがミヤーオ王国のトヨハです。親睦を深めるための武道大会ですが――ぜひ、楽しんでいってくださいね♪」
ニコニコしながら、ダーノ学園の連中に呼びかける。
それに応じるように、引率教師が進み出た。
俺は、瞬間移動魔法ですぐにトヨハの前へ移動する。
「あら、ナサトさま?」
「一応おまえは一国の姫だからな。なにかあったら、まずいだろ?」
ちなみに俺の目は、引率教師の左手に向けられている。
今、一瞬、確かに殺意が発生していた。
「……これはこれは。トヨハ姫様御自ら御挨拶いただき身に余る光栄でございます。小生はノワという者です。ダーノで魔法を教えております」
狐目をさらに細めて、如才ない笑みを浮かべる。
さっきの殺気が嘘だったかのような、人の良さそうな表情だ。
「どうぞ、お手柔らかにお願いいたしますね」
トヨハも笑みを浮かべて対応する。
だが、トヨハも違和感を覚えたのかぎこちない。
さすがのトヨハも、相手の秘めた殺意に気がついたのだろう。
「俺はナサトだ。この学園で臨時講師を務めている。担当は魔法と剣だ。……そっちの担当は魔法と暗殺術か?」
俺がカマをかけると、ピクリとわずかながら眉間が動いた。
しかし、それも一瞬。
再び人の良さそうなな笑みを浮かべて、恭しくこちらに頭を下げてくる。
「はは、そんな物騒なものは教えていませんよ。わたしはノワ。魔法と格闘を教えています。とはいっても、大したものでもないですがね」
「へえ? 魔法だけじゃなくて武術も教えるとは珍しいなぁ?」
この時代のレベルでは魔法と武術どちらかだけを学ぶのが常識だ。
両方を修めるというのは異端中の異端。
特にエリートの集まる学園の教師がそんな邪道ルートを歩いているのはおかしい。
「ははは、あなだって魔法と剣術だなんて相容れないものを教えているじゃないですか。わたしの格闘術なんて、基礎的なものだけですよ」
「謙遜するなよ。その身のこなし、かなり修練を積んできただろう? それに、懐に物騒なものを忍ばせてるな? ただの格闘術とは思えないよなぁ」
あえて踏み込んでみる。泳がせることもありだが、ここはあえて俺が疑っているとアピールしたほうがいいだろう。トヨハの安全のためにも。
だが、目の前のノワはあくまでも善良そうな態度を崩さない。
「いやはや、恐れ入りました。隠蔽魔法を使っていてもお見通しですか。いや、失敬。これは道中、モンスターが現れたときのためでしてね。いついかなるときに襲来があるかわかりませんので……。トヨハ様の前とはいえ、お許しください」
普通は王族の前で武装しているなんてありえないのだが、今は世界が滅びに瀕しつつあるとき。道中どころか学園にモンスターが攻めてくる可能性だってある。
「口が上手いな。だが、俺の前では武器も殺気も隠せないからな? 変な動きをしたら、俺は容赦しない」
「はははは、恐ろしい方ですな、あなたは。やはり剣術をおやりになる方は物騒でいけない。わたしはただの引率教師ですよ。そもそも、魔王軍と戦っていくために我々は協調していかないといけない。争ってる暇などないはずです」
もっともらしいことを言っているようだが、こんな状況でも武道大会開催を強行したのはバーチ側だ。
俺がいるからどんな事態にも対応できるが、武道大会をやっている最中にモンスターの大規模侵攻があったら、かなりマズイことになっていただろう。
「口ではなんとでも言えるさ。ともかく、俺はわずかな殺気でも見逃さない。それだけは言っておこう」
「ふふ、トヨハ姫様は優秀な騎士に恵まれたようですな。わたしもこの厳しさを見習いたいものです。……それでは」
そう挨拶をして、ノワはダーノの生徒たちの元へ帰っていった。
「……トヨハ、さっきの殺気、ちゃんとわかったか?」
「……はい……やはり殺気だったのですね……」
うん、わかったのなら合格だ。
「やっぱりなにか企んでるぞ、バーチは」
「……気を引き締めねば、なりませんね」
「ああ、あいつはかなりの使い手だ。俺は負けないがトヨハだと危険だ」
トヨハも剣の鍛練を積んだといっても、まだまだ付け焼刃だ。
あいつは、おそらく暗殺術を徹底的に学んでいる。
そんな奴は先手を取って倒してしまったほうがいいのだが、国と国の関係がこじれてしまうのもよくない。
俺ひとりだったらそんなことは気にせずさっさと片づけるのだが、今回は生徒たちにちゃんと武道大会をやらせてやりたい。
「とにかく、わたしも気をつけます。校長先生と学園の教師にも、いざというときは生徒を守るように言っておきます」
といっても、戦力はガウンというハゲ校長と、ポンコツ忍者のカスカくらいか。
ものすごく頼りにならない教師陣だ。
「ああ、まぁ、校長にも教師にも無理するなって言っておいてくれ。下手に立ち向かうとマジで危険だ。俺が全部引き受ける」
こりゃあ、気が抜けない武道大会になりそうだ。
常に感覚を研ぎ澄ましておかないと。
面倒なので、今すぐ半殺しにして魔法鎖で縛っておきたいぐらいだけど。
「よろしくお願いいたします。ナサトさま。なによりもまずは生徒を守ってください」
「うむ。まぁ、任せておけ」
まったく生徒たちの晴れ舞台である武道大会を後ろ暗い暗殺に利用するだなんて、やることがマジでクソだった。暗殺術を学んでいるだけある。
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