【第二章「ダークエルフ征服と混浴露天風呂修行!?」】

第17話「ナサトVSダークエルフ率いる暗黒旅団」

★ ☆ ★


「おー、いるいる。けっこう上位種も混ざってるじゃないか」


 俺は、魔物たちの群れから五十メートトほどの場所に転移した。


「ググルウウウ?」

「グガッ、グガウッ!」


 魔物の群れは、俺を見て移動を止める。

 ここは荒野なので周囲に人家はない。

 つまり、いくら暴れても無問題だ。


「さっきの実戦訓練でいい具合に体が温まったからな。思いっきり暴れてやるとするか! せいぜい楽しませてくれよ!」


 まずは右手を天に伸ばして、魔剣を具現化する。

 さすがに生徒相手に剣は振るえなかったからな。

 ここで剣を思う存分使ってやる。


「よっしゃ、来い! って言っても、言語なんて通じないだろうけどな」


 俺は、魔剣で肩を軽くトントン叩きながら、魔物の群れに向かっていく。

 その距離が縮まるにつれて、警戒するように魔物たちはジリジリと下がっていった。戦闘種族なだけに、本能的に力の差がわかるのだろう。


「ほらほら、来ないとこっちから行くぞ~?」


 あくまでも剣を肩でトントン叩きながら近づき、隙だらけの姿を晒し続ける。

 さすがに、戦闘種族のプライドを傷つけすぎたのだろう――。


「グガアアアッ!」


 先鋒を形成していた大型の魔犬が十体襲いかかってきた。

 四体は正面から飛びかかるように――そして、各二体が左右から挟撃するように。

 さらには、時間差攻撃をするように二体が続く。


「ほう、連携をとるか」


 これなら、少しは楽しめそうだ。

 俺は、その場で思いっきり地面を踏みこんで――飛翔した。


「グガウッ!」

「ガフゥッ?」


 地上から三十メートトほどのところまで上がったところで、浮遊する。

 目標を失った魔犬たちの攻撃は、まったくの空振りに終わった。


 あのまま立ってたら、十連続攻撃を食らっていたところだ。

 仮に、前後左右どこへ動いたとしても、追尾してきただろう。


「魔物でも、さすが犬型は知能が高いってことか。だが、残念だったな。俺は普通の人間じゃない。そして、魔法使いでも、騎士でもない」


 ――魔導騎士。

 それが俺の選んだ生き方だ。


「キシャアアアア!」


 空中に浮遊する俺に向かって、今度は魔鳥の編隊が襲いかかってくる。

 三体がひとつのグループを形成しており、それが五連続で来る。


「まぁ、普通は空中浮遊の魔法なんて使ったら制御で手一杯だよな。だが、残念だったな。俺は、やっぱり普通じゃないんだよ」


 血の滲むような努力どころか、血の溢れるような戦いを経て魔力量を最大限まで増やしてきた俺は、複数の異なる種類の魔法を容易く使うことができる。

 さらには、魔法を同時行使しながら魔剣だって使えるのだ。


「ほい、遅滞魔法」


 まずは魔鳥たちの飛行速度を強制的に、遅くする。


「で、加速魔法」


 そして、自らにはスピードアップの魔法をかけて攻撃に移る。


「ご苦労さん! 今度は魔物以外に生まれ変われよ!」


 俺は作業的に魔剣を振るって、瞬く間に魔鳥十五体を斬り刻んでいった。


「……別に遅滞魔法とか使うまでもなかったかな」


 だが、いちいち編隊を組んでくるのには驚いた。

 さっきの魔犬といい、なんかこの世界の魔族は知能が高くないか?

 これまでの百回の戦いの中で、ここまで統制のとれた魔物というのは珍しい。


「ま、いいか。楽しみが増えるだけだもんな」


 雑魚を倒すだけでは作業になってしまう。

 せっかく時間を割いて闘うんだから、歯ごたえがあるに越したことはない。

 と思ったところで――。


「オオォグ! オォオ!」


 今度は地上からオーク軍団が、一斉に矢を放ってきた。


「おお、しかも毒矢か。えげつないな」


 分析魔法で瞬時に敵の武器の種類や属性を見抜くことができる俺には、仕込んだ毒もお見通しだ。


 オーク軍団の毒矢の種類は多種多様だった。

 俺以外の人間がこんなものを食らったら、ひとたまりもないだろう。


 治癒魔法や毒消しを使ったとしても、何種類もの毒がミックスされたら回復するのが難しい。こんなことにまでよく悪知恵が回っている。


「だが、あたらなけりゃどうってことはないんだよな」


 俺はバリアを張って、オーク軍団の放った百にも及ぶ毒矢をまとめて防いだ。


 空中にいることで、逆に格好の標的になってしまっているのだが――全方位にバリアを張れる俺に隙はない。

 青く輝く障壁に接するや、毒矢は一瞬で塵芥のごとく分解されていった。


「おらおら! どんどん射ってこい!」


 人語はわからないだろうが、俺の挑発的な態度はわかるのだろう。

 オークたちは瞳を赤く光らせて、怒り狂ったように矢を放ってくる。


 その矢の中には、攻撃力をアップするためにミスリルをつけたものや炎属性の魔法が付与されたものまで混ざっていた。


「なんだ、今回の魔物どもはずいぶんと凝ってるな」


 オークなんて、本来、ろくに知能がない脳筋どもだ。

 そもそも矢を使うタイプは珍しい。普通は棍棒なのだ。


「さっきの魔犬といい魔鳥といい訓練された軍隊のような動きをしてたしな。なんか、厄介な指揮官でもいるってのか? たとえば、ダークエルフとか」


 そう言って、俺は軍団のオークたちの後ろに立っている最も魔力が強い魔族を見た。


「……ふん、忌々しい」


 俺を見て、ダークエルフが吐き捨てるように呟く。

 褐色の肌に、黒を基調とした水着のようなエルフ服。目つきがやけに鋭い。

 左手には強弓を持ち、魔法を付与した矢を番(つが)えようとしていた。


「人間風情に、我が鍛えた暗黒旅団が苦戦するとはな。しかし、ここまでだ!」


 そう言ったときには、ひょうっと俺に向けて矢を放っていた。

 目にも止まらぬ早業。

 その狙いは――心臓。


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