0-4 滅んだ島はクズが治めていた

 オウトル大公国からドン王国を見ると、発展する産業もなく、資源もなく、土地も痩せていて魅力もない島国だ。ゆえに、オウトル大公国からすると攻め落とすうまみがまったくない。


 ドン王国は島国だ。限りある大地だ。そして、貧しい大地だった。

 豊かな大きな大きな大陸が目の前にぶら下がっているのだ。

 大陸征服の足掛かりとして、近場のオウトル大公国を攻め入るのを誰が止めることができようか。

 ドン王国はオウトル大公国のガゼ辺境伯領海岸から攻め込んでゆくことが多い。オウトル大公国が嫌になるほど、数なんて数えてられないほどの回数である。辺境伯がこの地を支配するのも、この特殊性からである。


 ドン王国と休戦条約が結ばれて停戦しても、勝手に反故にすることも数えきれない。休戦条約がいつまでもつか、賭けのタネになることもしばしばだった。


 だが、なぜだと思うだろう。こんなにもオウトル大公国に戦を仕掛けて、お金が持つのかと。

 ドン王国はお金だけは豊かな国である。金がとれるからではない。それだったら資源が存在し、オウトル大公国もドン王国に攻め入る理由が生まれる。


 ドン王国は麻薬、覚醒剤等の生産国だ。

 各国の船に偽装して諸外国に密輸する。

 その偽装は稚拙で容易く見破れるのに、彼らは捕まらない。

 港やその地の支配者に賄賂を渡し、ときには弱みを握って脅して密輸を行う。非合法のモノを非合法に売りさばくのだ。

 彼らはそういう術に長けている。


 正常な国が行う行為ではないが、ドン王国は代々そうやって生きてきた。ドン王国の王族は密輸やら何やらと国民からの税金で、お金だけは潤沢にあったのだ。そのお金で何をしたかというと、ご存じの通り、他国から兵器を購入して隣国に攻め込んだのである。


 ドン王国の国民も国民でそれらの原材料になるものを育てていた。痩せている土地で稼ぎになるモノを収穫するには、思考を止めるしかなかった。そして、何も考えなければ、旨い汁にもありつけたからだ。


 そういう国を属国にしたいか、というとまったくならなかったのが、オウトル大公国である。征服して属国にしたところで、その王族のみならず民も厄介者としか映らない。彼らの責任を負わされたら堪ったものじゃないわけだ。他の国々も一番近くのオウトル大公国に丸投げした。あらゆる国家を侵略したいと考えている国もその島国だけは放棄していた。

 それぐらいドン王国は世界から見放された厄介な国だった。



 ドン王国はクズが治めていた島国と言ってもいい。

 そのクズをこよなく愛したのが嫉妬の神である。

 クズはよりクズでこそ良いらしい。愛おしいという。俺にはよくわからないが、わからない方がいいのかもしれない。

 だからこそ、この国は神に守られて繁栄した。

 そう、この国は嫉妬の神に守られてこその国だった。



 知らなかったでは許されなかったのだ。

 バカが他の神に浮気をしなければ、一晩で消え去ることはなかっただろう。

 クズが治めていていた島国を、バカが滅ぼした。





 ちなみに。

 この世界の嫉妬の神は男性神だ。

 しかも、筋肉ムキムキの。。。

 王太子に対して性的欲求があったのかと、島があった方を向いて問うと、ないよー、と見えた。気さくな神様の場合、たまーに質問の答えを見せてくれることがある。あー良かった、良かった、一安心。神の寵愛の範囲内ではあったのか。


 だって、クズじゃなくて、バカだったから。


 浮かんだ文章が見えた。

 ん?

 え?

 じゃあ、クズだと?

 俺は深く考えることを放棄して、神にお礼を伝えてその場から立ち去った。





 しばらくの後。

 俺はあの島に表示された最初の文章を思い出した。


 あの男はバカだった。嫉妬の神より


 あ、

 王太子はクズではなく、おバカなだけだから天罰が下ったのか。

 ということは、あそこの歴代の国王たちも本当にクズだらけだったんだな。クズってバカな行動もとるけど、基本的にはある意味アタマが良いからねぇ。

 誰にも言えない事実だわ。

 言ったところで誰も信じてくれないだろうけどね。

 世間では、あの島国は神罰が下ったのでは、ぐらいの認識しかない。


 クズをこよなく愛する嫉妬の神。

 あのぐらいの「加護」を持てば、最強のクズになるに違いないという神の思惑は脆くも崩れ去った。人にとっては幸運だった。

 やはり神の考えは人にはわからない。わからない方が良い。

 俺以外に真実を知る者はいない。

 きっとその方が幸せだ。

 バカにバカにされたらそりゃ怒るよねっていう認識ぐらいの方がきっと幸せなはずだ。

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