四十肩で故障中のヒーラーは、猫耳娘と出会い、ワイヤーアクセサリーを作りながら、ゆるゆると魔王城奪還に向かうことになりました!

春川晴人

三秒ルールに気をつけてー! 編

プロローグ 前世の記憶

 記憶が戻ったのは最近のことだった。魔王城奪還へ向かう途中、おれは、ヒーラーなのに四十肩になってしまった。だが、その痛みのおかげで、前世の記憶が戻ってきた。


 だがそれは、思い出したくもない記憶だった。


 妻の不倫、息子の反抗期、やってはいけない場所からの借金、リストラ、そしてリストカット失敗。最後は猫をかばってトラックにはねられた。


 人間界でのその記憶が四十を過ぎてなぜ、今頃になって戻ってきたのかはわからないが、とにかく全力を出せない、正常な判断のつかない状態のまま、仲間に裏切られ、首をはねられてしまった。ヒロユキだ。あいつかわいがってやっていたのに、なんでだ?


 昨日から断続的に降りそそぐ雨がうっとおしくて、戦闘中だというのに、瞬間的に目を閉じた。


 なにも見たくない。

 なにも聞きたくない。

 なにも信じたくない。


 でも、それでも死にたくない。


 おれは、瞬間的に三秒ルールを思い出し、自分にヒールの魔法をかけると、おもむろに首を拾って、もう一度ヒールの力で頭と体をくっつけた。


 しかし、何事も慎重でなければならない。あせって首をつなげたものの、後ろ前に首をつけてしまったのだ。


「やーい、ポンコツーオヤジー!!」


 若さと勢いだけの剣術使い、ヒロユキは、おれを指差し笑うだけ笑うと、仲間とともに草むらに消えて行った。


 こうしておれは、雨の中冒険者たちからあっさりはぐれ、というか追い出され、ひとりぼっちになってしまったのだった。


 つづく

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