第7話 百巡目のデッドエンド その6

 震える手でペンを掴み、ナイフの刃を下敷きに情報を書き込んでゆく。


『百。美琴、洞窟より連れ出すも落石により死亡。記録によると水場にいようと洞穴に隠れようと、彼女は四日目の昼に様々な要因を経て、必ず死ぬ』


 さらに別な紙を取り出して書き込もうとする。

 手の震えが止まらない。

 わたしはペンを握る右手を左手でしたたか打ち据えた。

 痛みで、無理やり、感情を、制御する。


 もう間もなく、自分は死ぬだろう。

 怖いのは当然だ。可能なら逃げ出したい。


 しかし何をしようと終わるのであれば――、

 少しでも次に繋がる情報を残さねばならないと愚考する。


『百。このデスゲームをクリアする方法は存在しうるのか。二人零和有限確定完全情報ゲーム。いや、わたしたちとあいつで三人対一人だが、自分が言いたいのはそうではない。敵と味方で考えるとして、この迷宮みたいな現状を打破するには――』


『そもそもの前提を、根本から覆す、何かを用意せねばならない』


 わたしは顔を上げた。

 目をきょろきょろとくまなく巡らせる。レンは、いない。

 ほっとして書き込みの続きを書こうとする。


「ふーん。いいわよ、それ。なかなか良いところを突いているわ」


 予想外に近い声に、全身の毛が逆立った。


 声が。

 榛名レンの、声が。


 


 彼女は、重力を無視したまま、木の枝を足場に、逆さ向きに立っていた。


 この一文では伝え方が不完全だろう。なのでもう少し書き加える。


 わたしは声も出せない。

 絶句も絶句。


 髪も制服も――当然、スカートも、何もかもがまるで普通に地面に立っている格好で、それでいて逆さ向きであの女は佇んでいるのだった。


 


 つまり、こういうことなのだ。

 重力、仕事しろ! と。





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