心療内科医と自我理想の話をした話

訳あって、今日心療内科を受診した僕です。


今回はその心療内科の先生と話していた結果、面白い話をしてくれたので、そのことについて書きたいと思います。


note版はこちら↓(こっちのほうが画像やリンク付きで読みやすいです)

https://note.com/doutoku0428/n/nee4de8753b0f



目次

○自我理想とは――理想自我と対照して――

○自我理想が不安を和らげる

○S. フロイトの本当の後継者はジャック・ラカン

○まとめ



○自我理想とは――理想自我と対照して――

まず自我理想 (英: ego ideal, 独: Ichideal) を説明するにあたって、並行して説明しなければならないものが理想自我 (英: ideal ego,独: Idealich) である。


自我理想も理想自我も精神分析学の用語であり、特にジャック・ラカン (Jacques-Marie-Émile Lacan) の言葉でもある。

そしてどちらも理想の一つなのであるが、微妙なニュアンスの違いがあると、僕と話した心療内科医は言う。


初めに簡単に言ってしまうと、自我理想とは言語的に説明できる理想のことであり、理想自我は象徴的な理想像のことである。

とは言っても、いまいちわかりづらいだろう。


そこで心療内科医は自我理想の例をいくつか挙げた。

まずはキリスト教の「隣人愛」である。

隣人愛とは、簡単に説明すると、身内だけでなく隣の人も、さらには盗賊の人も、とにかくどんなひとでも愛せよ、という教えである。

キリスト教はこれを価値とし、美徳としている。


次に挙げられたのが仏教の一つの浄土宗である。

浄土宗とは、「南無阿弥陀仏」と唱えればすべての者が救われるとしている宗派である。

「南無」とは「帰依する」という意味で、「阿弥陀仏」とは仏である阿弥陀様のことである。

つまり、「南無阿弥陀仏」には阿弥陀様を崇める意味合いがある。

そして浄土宗の教徒たちは阿弥陀様を崇めることを絶対的な価値としている。


つまりどういうことかというと、自我理想とは、自身が価値とする行動が言語的に説明されたものということである。

もっと簡単に言えば、座右の銘が最も近いだろう。


たとえば、僕は「偉大なる精神に小事なし」を座右の銘にしている。

これはシャーロック・ホームズシリーズの記念すべき第一作『緋色の研究』から来ている。

意味は「些細なことほど重要」ということである。


シャーロック・ホームズは非常に鋭い観察眼で、どんな些細な事柄でも見逃さない。そしてそれらの重要性を軽視せず、その結果としてどんな難事件でも解決してしまうたぐいまれな能力をもっている。


僕は心理カウンセラーを目指して勉強しているが、ホームズのような観察力と推理力はカウンセリングにも、さらには日常生活上での交流においても役立つと考えている。


そうなると、僕の自我理想とは「細かく観察し、些細なことに敏感になる」ことだと言えるだろう。


一方で理想自我は、特定の人物だと考えていいだろう。

理想自我は基本的には幼少期に形成される。

たとえば父親がそうだろう。精神分析学的に言えば、男根期のエディプス・コンプレックスを克服することによって、父親のように母や女性を愛そうという性役割を取得する。

もっとわかりやすい例で言えば、熱心に仕事する父親を見て、このような男性になろうと思えるようになる。こうなると、理想自我は父親ということになる。


僕の場合はベネディクト・カンバーバッチ演じるシャーロック・ホームズが理想自我だと言えるだろう (「またホームズか」と言うのは遠慮してもらおう)。


さて、長くなったがまとめよう。

自我理想とは、自身が価値とする行動が言語的に説明されたもののことだ。

座右の銘が最も近いだろう。

たとえば君が、「何があっても他者を助ける」ことを信条としていれば、それが自我理想だと言えるだろう。


一方で理想自我とは、象徴的な理想像と言えるだろう。

憧れの人物と言ってもいいかもしれない。

もしあなたがスーパーマンになりたいと思っているのなら、それが理想自我だろう。


それにしても、僕は心療内科医のこの話を聞いて、あるマンガ・アニメのワンシーンを思い出した。


"酒だったり… 女だったり… 神様だったりもする

一族… 王様… 夢… 子供… 力…

みんな何かに酔っ払ってねぇと やってらんなかったんだな…

みんな何かの奴隷だった…"


これは『進撃の巨人』に登場するケニー・アッカーマンの最期の台詞だ。

この作品でケニーの台詞は皮肉のような意味合いに聞こえるが、精神分析学的には「正しい」真実なのかもしれない。

何かに酔っていないとやっていられないが、そうしているうちが安定性を保っていられるのではないだろうか。



○自我理想が不安を和らげる

それで、なぜ心療内科医が僕に自我理想について語ったのかというと、僕には自我理想また理想自我が欠落しており、そのためにうまく不安に対処し切れていなかったからである。


心療内科医曰く、自我理想および理想自我には不安を和らげる効果があり、その効果は自我理想のほうが強いらしい。

つまり自身の価値や方向性が定まっていると不安に対処できるようになるのだ。


心療内科医は僕に家族構成や僕が家族に対してどのように考えているかなどを聞いた。

そして総合的に僕には自我理想も理想自我も欠落していると仮説を立てた。

さらに、僕は感じる不安を自我理想などではなく、ガールフレンドという不安的な存在で蓋しようとしていたと考えたのだ。


ここだけの話、僕が今日心療内科を受診した理由は、失恋の末、自殺未遂をしたからである。

残念ながら、今回は僕が恋人がいないと不安になってしまう理由や、自我理想が欠落している理由はわからなかった。

自我理想についてはこれからでも形成することは可能であるため、大した問題にならないとして、不安の原因に関しては言語的に説明できるようになっていたほうがいいだろう。


○S. フロイトの本当の後継者はジャック・ラカン

さて、上では自我理想はジャック・ラカンの用語だと説明したが、彼は S. フロイトの精神分析学の考えを最も正しく引き継いだ人物だとされており、彼自身も自我心理学を批判している。


自我心理学とは S. フロイトの娘であるアンナ・フロイトによって創始された精神分析学派であり、そのアンナ・フロイトは防衛機制を体系化したことで有名である。また、心理・社会的発達段階をまとめたエリック・エリクソンも有名だ。


ではラカンの考えはどのようなものなのかというと、僕も詳しくは知らないのであるが、心療内科医曰く、ラカンはフロイトの精神分析学を理数的に体系化したらしい。


心理学、特に精神分析療法やクライエント中心療法は主に概念的に語られるため、客観性を重視する精神医学とは相性が悪い。

しかし、精神医学にも限界があると心療内科医は言う。

つまり、心理学にはない利点を精神医学はもち、逆に精神医学にはない利点を心理学はもっているのだ。


だが、医学の下にある精神医学が概念的な精神分析学を用いるのははばかられる。

そこでラカンの考えが利用できるのだ。

つまり、ラカンの精神分析学は精神医学とフロイトの精神分析学のハイブリッド型と言えよう。


ところで、なぜラカンの精神分析学は日本で流行しなかったかというと、彼に『エクリ』と呼ばれる著作があるのだが、この日本語訳があまりにもひどく、とてもじゃないが読めたものではないらしい。


なるほど、本は知識の媒体として非常に重要だとわかる。

「心理学の三大巨頭」と呼ばれる心理学者の一人であるアルフレッド・アドラーの教えが日本で広まらなかった理由も、彼はあまり著作を残さず、書いたとしても読みづらかったからとされている。

現代では音声や動画といったメディアが増えているが、昔は紙が知識の命とされていたのだろう。


ちなみに、アドラー心理学こと個人心理学について書かれた『嫌われる勇気』は心理学や哲学の関係なしに名著であり、確実に力となる本であるため、まだ読んだことがない方は一度は読んでおくことをオススメする。


あと、僕も一応アドラー心理学とニヒリズムをかけあわせた本を書いているので、よかったら読んでほしい。

kindleunlimited会員は無料で読めるぞ。


『アドラー心理学とニヒリズムでイジめと戦う ――善く生きるための福音書――』 (20分で読めるシリーズ)


話は戻るが、今ではラカンの精神分析学をわかりやすくまとめた本も出てきている。

『人はみな妄想する』がその代表例だと言えよう。

これはまだ僕も読んだことがないが、もともと気になっていた本であるし、今日心療内科医の話を聞いて、さらに興味が湧いた。



○まとめ

さて、ここまで何回か脱線してしまったため、最後にこの記事に書いたことをまとめよう。


僕は今日心療内科医から自我理想について話を聞いた。

自我理想とは、自身が価値とする行動が言語的に説明されたものであり、座右の銘がそれに最も近い。

一方似た言葉に理想自我があるが、これは象徴的な理想像のことであり、憧れの人物と言い表せる。


そして自我理想と理想自我には不安を和らげる効果があり、その効果は自我理想のほうが強い。


自我理想や理想自我はジャック・ラカンの用語であり、彼は S. フロイトの精神分析学を最も正しく継承した人物とされている。

そして、ラカンの精神分析学は精神医学との相性が良い。

彼の精神分析学の最も優れた入門書として、『人はみな妄想する』が挙げられる。


といったところだろう。


それにしても、僕の根本的な不安はどこからやってくるのだろうか?

それを突き止めるには長い時間がかかりそうだ。

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