第42話

『──……を検知』


 何だって?


『救世システム再起動。アップデート確認。聖女リアクター稼働開始』


 何を言ってるんだ、この頭の声は。

 これが神の声だとすると、神様って言うのは狂ってるんじゃないかと思う。


「セイラ?」

「よくわかんねぇけど……アタシにはまだできることがあるみたいだ」


 そうだ、座り込んだままではいられない。

 何がどうなったかはわからないが、まだやれるってならやってやる。

 座り込んで泣いていたって、何も解決できやしないんだから。


「すまねぇ、エルムス。情けねぇとこを見せたね」

「いいえ。さぁ、いきましょうか」


 立ち上がったエルムスの剣が目に入る。

 モールデン伯爵から借りた業物の剣が見る影もない。

 あれだけ激しく戦えば、壊れもするか。

 だが、これじゃあまともに戦うのは無理だろう。


「そんなのでアタシについてくるのかい?」

「あなたの隣が僕の居場所なので」

「……だろうね」


 傷だらけのエルムスの手を握る。

 今ならわかる、アタシが聖女であるために必要なことが。

 そして、隣に立つこの男の事をなんと呼ぶのかも。


『救世システム起動。修正プラン実行。対象指定完了。聖女リアクター結合および同期を確認』


 心の奥底から、温かいものが湧き上がってくる。


 スラムにいたころに無くしてしまったと思っていたもの。

 きっと取り戻せないとずっと思っていたもの。

 弱さだと信じていたもの。


 それが、アタシを満たしている。


『──〝……〟認定プロセス開始』


 脳裏であの声が響く。

 そうだ、そうとも。

 聖女アタシの隣に立つ者であれば、そうであろうさ。


「エルムス、アタシと一緒に死んでくれる?」

「もちろん」


 エルムスの即答に、思わず胸が高鳴る。

 ならば、アタシもこいつのために死のうじゃないか。


『──承認。エルムス・アルフィンドールの救世システム同期を確認。システムアップデートおよび最適化を開始』


 握った手から光が漏れる。


 それは温かくて儚くて、でも力強いもの。

 人の営みに当たり前に溢れているもの。

 常に人が胸に抱き、命の在り様とするもの。


 ──すなわち、『愛』。


 聖女のアタシが、真に力へと変えるべきものの名だ。

 それを最も強く受け止める人が、隣にで同じ方向を向いている。

 そして、そんな人間を何と呼ぶかなど……誰でも知っていることだ。


『全行程完了。当該端末を〝勇者〟に認定』


「行くよ、エルムス。決着をつけて、帰ろう」


 アタシだけの〝勇者〟が今ここに誕生した。

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