【警察到着まで】何をして待つ?

□休む

 考え過ぎだろう。

 素人が下手に手を出して状況を悪化させるのは良くない。

 ここは専門家に──プロの人たちに任せるべきである。

 待っていれば、すぐに助けは来てくれるだろう。


──ならば、もう少し気を抜いても大丈夫なはずである。

 後は何もせず、ただ警察官が到着するのを待てば良いのである。ここまで頑張った──だから、後はじっくり待とう。

 私は壁に凭れて座り、両膝を抱えた。

 ボーッと、警察官がここに駆け付けてくれるのを待った。


──待った。

──待った。

──待った。


 しかし、幾ら待っても警察官は駆け付けてくれなかった。私は焦りを感じていた。

 只でさえ時間がないのに、どれ程の時間を無駄にしてしまったのであろうか。


──チリリリリンッ!


 突如上がったその音に、私は肩をビクつかせた。

 何の音だろう──固定電話の着信音だった。

──着信音?

 ヒンヤリと、私は冷たいものを感じたものだ。


『……受話器は切らずに、置いておいて下さい』

──そう言われて、私は電話機の横に受話器を置いたはずではないのか。今も警察と通話中ならば、着信音が鳴るはずはないのである。


 私は電話に駆け寄り、受話器を手に取った。

「も、もしもし!?」

 声を上げた──。

『無事でしたか?』

 安堵したようなオペレーターの声が聞こえてきた。


「あ、あの……場所は分かりましたか!?」

 すると、オペレーターから申し訳なさそうな声が返ってきた。

『場所の特定に時間が掛かっておりますので、もう少々お待ち下さい。警ら中の警察官を向かわせますから、それまで堪えて下さい』

「そんな、悠長なことを……!」

 抗議の言葉を口に出そうとして飲み込んだ。

 全ては、電話を切ってしまった私が悪いのである。

──しかし、不思議だった。何故、電話を切った?

 私は切ってなどいない。

 切らないようにしたはずだ。

 私の中の何かが──もしかしたら、可笑しいのかもしれない。


 それで、ハッと気が付いた。

「もしかしたら……!」

 気付いたその考えを、口に出そうとした時であった。──私の耳に、何処からかブザーの音が聞こえてきた。

『……ピーッ、……ピーッ、……ピーッ……』

 異常を知らせるようなその音は、とある部屋の中から聴こえてきていた。

 ブザー音──それは、タイムリミットを告げる音であった。その音が鳴り響いたのと同時に──爆弾が爆発した。


──ドーンッ!


 世界は真っ赤に染まった。

 爆弾の衝撃で──私は爆風に巻き込まれて吹き飛んだ。

 一瞬の出来事で、何が起こったのか理解することは出来なかった。気付いた時には、壁に叩き付けられ──意識を失ってしまっていた。

 私の身に何が起こったのか──それを私が理解する機会は永遠に来なかった。


 何故なら私が──目を覚ますことは、もう二度となかったからである。

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