第26話
二十八、
その夜空を切り取って、なお
六角形の底辺を持つ塔の
(こんなに沢山の人たちが……)
サラは自分が恵まれていたのだと改めて感じていた。人影の多くは
(でも、この大勢の中からハーリムを見つけるなんて出来るのだろうか?)
灯りを落とした
考えた
御史台はハーリムを何としてでも生捕りにしたいはずだ。医師の口から証言を得られねば、事件の全容解明は難しい。すでに、二輪の囚車(囚人を護送するための
まず、薬ーーサラも酷い目にあったブリル大湿原産の
二手めは、その
「俺の
ボルが緊張を
夜は、じりじりと
「動いた」
ボルが
「あれはーー」
小柄なその人物は、
御史台が一斉に動いたのはそのときである。暗がりから数人が現れ出でて、
「
「手向かい無用!
御史台の警吏たちは、瞬く間に
恐怖の色を浮かべた
「ようやく捕らえたぞ!」
人垣の中に、ずかずかと長身の男が進み出た。昂奮で上ずった声のそいつは、監察御史のシクマであった。黒の
シクマは空いている方の手を伸ばすと、無造作にほっかむりの布をむしり取った。現れたのは、
医師が手荒く扱われるので歯噛みしていたサラだが、
(ーーようやく会えた)
と言う思いで、奇妙な安堵をも覚えた。一度とて顔を合わせたことがないにもかかわらず、何故か昔からよく知っていたような気さえした。
「
シクマが嘲笑った。
「
勝利に酔いしれるシクマを尻目にサラたちは、気づかれないように慎重に屋根の上を移動し始めた。計画には反するが、ハーリムが傷つけられそうになったなら、円陣に突入するしかない。
シクマはさらに侮蔑を浴びせようとしたが、言い終えることは出来なかった。
「うおっ!」
「なんだ、
人垣が俄に
「
シクマが叱責するが、
ところがーー。
押さえつけられた警吏が、尋常でない
すると、一同が肝を潰す事態が
ぶつりーーぶつりーーぶつりーー。
物を力まかせに引きちぎるおぞましい響きがした次の瞬間、男の首だけが胴からずぼっと飛び出した。〈首〉が飛んでいった先は、ハーリムの
「ごふっ!」
強靭な
「くそっ! 〈
ラムルが叫んだ。サラたちは屋根から飛び降りると、円陣めがけて疾走した。
「こいつめ!」
ボルが棍棒を振り下ろす。が、〈首〉はそれをかわすとまるで禿鷹のように旋回する。ボルが檄を飛ばすと警吏たちが弾かれたようにてんでに〈首〉に躍りかかった。しかし〈
あまりの怪異に警吏たちは、悪夢の中に叩き落とされた如く呆然となっていた。その隙をつかれた。〈胴体〉が、〈首〉のないまま起き上がった。そして後ろ手に縛られた状態とは思えぬ機敏さで蜻蛉を切ると人垣を抜け出した。これまた驚くべき
「ハーリム先生……」
ふらふらと近づくサラの耳に、
「ち、お出ましだ」
ボルが舌打ちをした。騒ぎを聞きつけた
「連れていくのは無理だ。急げ!」
根の生えてしまった
夜がいっそう
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