第21話 最強の盾と最強の矛 上

 現れたリーザスレイヤーが乗り込んでいたサイボーグ装甲は、ラウンド1で見たものとは明らかに形状が異なっていた。全高は通常のよりも五倍近くもあり、頭部にはヘッドギアのようなものがリーザスレイヤーに被せられている。

 肉体の補助をするものではなくサイボーグ装甲そのものが本体のようで、さながらロボットのようであった。


「クソリーザよ。出て来いよ。出ないとこっちからお呼びしちゃうぞ」


 リーザスレイヤーの右手が動くとともに、サイボーグ装甲の腕から一丁のマシンガンが飛び出して、照準がリーザたちがいる二階に向けられた。嫌な予感がすると直感で悟り、ニナを引いて部屋の奥へと駆け込む。


「三、二、一、ファイヤー!」


 ドドドドドドドドド!!!!

 重厚なノックの音とともに、弾が二階に向かって放たれていく。

 現実ではまったく動いてないデスクであるが、ゲーム内の判定では次々と貫通と破壊の表示がされており、重いデスクがまるで紙切れのように吹き飛んでいく。


「な、なんだ。あのバ火力」

「リーダー。逃げて下せえ、今さっきエンがやられた」


 突如として現れたリーザスレイヤーに慄くジョーに、三階から降りてきたジョーの仲間である太っちょのマシンガンの男が撤退するよう呼びかけた。


「嬢ちゃんたち一階に降りるんだ。引け!」


 一時休戦とジョーに誘導される形で、リーザたちは階段を使って降りていく。


「やられっぱなし、じゃ」

「しょんべん弾だな。マシンガンってのはこうやって撃つんだよ」

「ぐおおお!!」


 二階で残っていたマシンガンの男が意地を見せようと、自前のもので抵抗したが、まったく聞かず。リーザスレイヤーのマシンガンの餌食となって退場してしまった。


 一階に降りると、目の前にサイボーグ装甲の銀色の足が見えていた。


「リ、リゼさん。待って、腕がちょっとしびれて、動きが」


 先ほどジョーに撃たれた後が尾を引いたのか、ニナの左腕が動かず動きに支障をきたしていた。

 クソッ、出口まであと少しだってのに。

 すると、後ろから追ってきたジョーが階段を下りた先の壁を叩き、壁から扉を出現させた。


「裏口から逃げるんだ」


 ジョーの誘導のおかげで、廃ビルから脱出できたリーザたち。一方表の法ではサイボーグ装甲が地面を踏みしめて、地をならしていた。


「どけどけ。クソリーザ以外の奴は消毒だ!」


 多数の銃弾の嵐の中に叫び声が上がっていた。ジョーと交戦している間に、廃ビルの拠点を目指して戦っていたほかのチームが、リーザスレイヤーによって邪魔だと判断されて次々と退場していく。弾速があまりにも早く、壁の裏に隠れる前に弾丸が追い付いてしまい次々と退場者が増えていく。


 廃墟の裏側に隠れて一部始終を見ていたリーゼたちは、さながら逃げ遅れた市民が怪獣に蹂躙される様を目の当たりにして、もはやどれが敵か味方か関係ない、自分以外すべてが的であるように見えた。


「何あのサイボーグ装甲でかすぎ! マシンガンをライフル銃のように持って攻撃なんて」

「エネミーよりひどいじゃねえか」

「落ち着け嬢ちゃんたち」


 ジョーが廃墟の壁に隠れながら、リーザたちに言い切った。


「慌てても何の得にもならねえ。かたきは取ってやるぜマル・エン。いくらマシンガンだろうとも、弾切れしちまえばこっちのもの。サイボーグ装甲なんざでかい図体で荷物を運ぶだけの補助機械だ。マシンガンを担ぐだけで大したこともねえ。見てろよあいつの脳天にぶち抜いて――」


 ドーン!!

 ジョーが言い終わる前に、大槌が打ち込まれたように、廃墟の壁が銀のこぶしでぶち抜かれた。

 幸いジョーはバーチャル側であったため吹き飛ばされただけで済んだものの、補助機械の範疇から逸脱したサイボーグ装甲の威力に這う這うの体で、吹き飛ばされた大きなコンクリートの塊の後ろに隠れた。


 それを逃がすまいと、マシンガンの引き金が引かれる。

 ド・ド・ドーン!!

 放たれた弾が三発コンクリートに撃ち込まれると、ジョーは脳天もろとも吹き飛ばした。コンクリートはゲームでは貫通したという形で、現実では壊れてはいないものの、演出という形でジョーの首から上がなくなると現実だったらトラウマになりそうなやられ方で脱落した。


「ひ、ひいい!」

「ちょ、グロ。気持ち悪い」


 あまりの凄惨な倒され方に、ニナは口元を押さえて戻しかけた。顔を出してみると、リーザスレイヤーは廃車の裏に隠れていた奴や、ビルの中などにも弾を撃ち込んでプレイヤーを倒していた。

 暴力の塊の襲来にリーザは初めて慄いた。ロボットのようなサイボーグ装甲もそうであるが、廃墟の壁は鉄筋コンクリートなどの抵抗値が高いはず。それがまさかたったマシンガンの二三発で貫通されるとは思っていなかった。


「なに……あれ。重機銃じゃない! 重機銃なんか反則でしょ!!」

「でも重機銃なんて持ってこれるはずないよ。そんなものGWGで使用が認められてない……でも、あの威力はどうみても」


 存在しないはずの重機関銃の威力の前に気圧されるリーザたち。すると無線からブルゴが慌てた様子で連絡が入ってきた。


『三人とも聞こえてますか。あのサイボーグ装甲のプレイヤーが持っている銃はロストテクノロジーシリーズのGAグラドニアアームズMMミドルマシンガン中機銃です』


 ロストテクノロジーシリーズとは、かつて製造されたものの実践の戦場には使用されずに廃棄された武器のことである。その一つであるGAMM。これは戦争末期モンテ共和国に対して劣勢だった情勢と制圧面の挽回を図るとともに、保守的なグラドニアアームズ社の社風を脱皮するために若手技術者の手で生み出された。

 グラドニアアームズ社は、信頼性と整備性という実践面を重きに置いていた。そのため新しいことへの挑戦や新技術の導入が遅れ、戦争開始最初は技術の優勢を取ってモンテ共和国相手を圧倒していた。しかし戦争後半になると新技術を取り入れ続けたモンテ共和国の製造会社に遅れを取るようになった。

 そこで若手の技術者たちが、もてる技術を集結させ、熱を帯びやすい銃身の交換の簡易性・機銃の軽量化・軽機関銃よりも口径の大きい弾の使用などを想定して開発された。


 結果を言えばGAMMは製作できた当時としては欠陥武器であった。銃身の交換が容易にはなったものの、肝心の本体の重量を十キロ以下に抑えることができず重機銃と同じく台車に乗せて運ぶしかなく。しかも使用する弾薬は中間サイズと重機銃よりも威力がないと中途半端な機銃になってしまった。ただし、GAMMが目指そうとしていたコンセプトは間違っておらず、現代では技術の進歩により汎用機関銃として正式採用されている。

 なお中機銃とは、軽機銃と重機銃の中間という意味でつけられたこの機銃独自の呼称である。


 ではここでGWGにおけるGAMMの性能はどうであるか。実際に弾を放つわけではないため銃身の交換は不要になってしまった。発射速度と弾数は重機銃並みだが重量のせいで移動速度が大幅に低下。つまり通常の戦闘ではお荷物になるだけ。

 だがサイボーグ装甲がその重量を代わりに負担していた。サイボーグ装甲は人一人では運びきれない荷物を補助する器具であるため、本来は持ち運び不可のGAMM通常の軽機関銃と同等いや持ち運ぶことが可能になったため、アサルトライフルのような運用を可能にしてしまった。

 これがブルゴからもたらされた分析の結果である。


「つまり武器の組み合わせのせいで、実質重機銃を相手にするってこと」

「そんなの無茶苦茶じゃない!」

『いや勝ち目自体はあります。一つはGAMMはその威力の高さからリロードが四十秒もかかることです。そして二つ目がサイボーグ装甲の弱点は激しい動きについてこれないこと。撃ち終わった今のうちに機動戦に持ち込めばタイミングがずれて、隙が生まれる……はず』

「隙って、それが生まれたとして誰が撃ちに行くんだよ。あいつあたしが目当てだ。ニナのサブマシンガンじゃあ、あいつの脳天に武器込めないよ」

『ミーシャリさんを今呼び寄せています。あのリーザスレイヤーに対抗できるのは遠距離射撃に特化したAZ・01でないと』


 頼りにしたくない人間に頼らざる得ないのは、好ましくなかった。


「ほかに接近してくるチームと共同で倒すとかは?」

『残念ながら。今レーダーで確認できるのはニナ殿たちだけなんです』

「なんだって?」

『全滅しているんです。リーザスレイヤーの攻撃でほかのチームがレーダーに映らないんです!』


 繰り返し強調する形で最悪の事態を告げるブルゴ。


 ジョーもほかのチームもいないとなると、やはりミーシャリの遠距離射撃で倒すほか道がなくなる。だが問題として、今いる廃墟エリアから鉱山まで距離がある。それまで二人が生き延びれるかは、難しい。


「ニナ、あたしはミーシャリと合流する」

「じゃあ、私は何を」

「ここで待機だ。ニナはまだ回復しきってない、あいつの狙いはあたしだ。ほかのチームがいない以上、あいつを倒して、ニナが生き残れば優勝になる」

「でも、リゼさんが巻き込まれたら」


 心配する気持ちは理解できる。リーザに恨みを持っているあいつが、サイボーグ装甲の一撃を食らわせるかもしれない。だがリーザの目的は優勝、ほかのチームが全滅しているのは最大のチャンスである。

 ミーシャリに頼るのは癪に障るものの、この危機を好機に変えなければならないのが自分に課せられたミッションだ。


「あたしは負けない。必ず帰ってくるから。さあ、来やがれ!」

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