第6話 悪意なき善意

「あの店長いい人だったね。住み込みまでさせて働かせてもらうなんて」


 『バルドのGWG専門店』を出た時にはもうお昼を過ぎていたので、近くのバーガー店で二人は昼食を取っていた。元々手持ちの金がなく、どんな銃があるのか確認と試射をするだけで終わるつもりであったが、思わぬ天の巡り合わせで欲しいものが手に入りリーザは晴れ晴れとした気分で、肉厚のパティとトマトの酸味を味わっていた。


「後ろで冷や冷やしていた私の気持ちも考えてよ。ずっと店長がリーザアンチだと思っていたから、どうやって見つからないようにするか悩んでいたのに」

「ごめんね。ここのバーガーあたしが奢るから」

「…………それなら許す」


 複雑な面持ちでじゅるるとニナがコーラをすする。ちなみにお金は店長に頼み、バイトの金の一部を先払いとして頂いていた。


「けどあんなボロそうなビルの中で暮らすの? 私一日でも無理そう」

「住めば都よ。屋根もあるし、あの辺静かだし職場から階段でたった五分。軍にいた時よりぜんぜん」

「国軍の生活環境過酷すぎない!?」


 戦時中は空襲警報が絶え間なく鳴り響き、いつ屋根が落ちるかもしれない日々を送っていたリーザにしてみれば、平和で屋根と建物があるだけで十分すぎるくらいだ。


「つか住む場所なかったんならさぁ。私の家にいててもよかったんだけど」

「ありがたいけど、どのみち誘いがあってもあたしはどっちみち出ていく予定だったよ」

「どうして?」

「命の恩人であっても、結局はその場にいて助けないといけないと動いた他人。一宿一飯の恩義とか言葉はあるけど、恩をかさに着て住み続けたらそれは寄生虫。うら若き乙女の大学生の部屋にいちゃいけない。店長の店で働きながら住むのは、対価として正当なものだしね。それにあの伯父。リーザファンなのか知らないけど、あたし目当てに上がり込んで来そう。それで一番困るのはあんただろ」


 つまんだフライドポテトをニナに指しながら、説明してそれを口に入れた。するとニナは力が抜け落ちたように、持っていた紙コップを置いてため息をつく。


「リゼさんは大人ですね」

「あんたももうすぐ大人でしょ」

「ぜんぜん。私が頑張ったのは大学受験だけ。卒業後の進路は伯父の会社の関連先。マンションの部屋も食事代も、銃のお金もぜーんぶ家族が用意してくれたもの。今の私が自分の力で手にしているGWGだけ」

「反抗すればいいじゃない。バイトして自分で稼ぐとか」


 モンテ共和国が格上のグラドニア王国の圧力から抵抗するために武器を取った。それと同じようにとリーザは提案した。だがニナは冷めたポテト口に入れながら冷笑する。


「リゼさん、仮に私がバイトして何十時間も汗水垂らして必死に貯めたお金を、親は数分で同じ額を稼ぐんだよ。それで「そんなことしなくても」ってポンっと悪気なく出すの。それを私は黙って受け取ってしまう。根性がないんだよ私」


 頬杖をついて力なく笑うニナ。

 戦争中は敵が襲ってくる、制圧されるとモンテ国民は一致団結して抵抗するため立ち上がった。だがニナの場合は悪意なき善意、抑圧ではなくあなたのためという平和な時代特有の苦しさだ。

 その問題に対する答えをリーザは返すことができなかった。

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