勇者対決1

 準決勝第2試合


 漆黒のアシュリー対真紅のエンティーナ。

 入学間もない時期に実現した勇者同士の戦いに、生徒一同が息を呑んで見守る。


 拮抗した試合になる──と思われたが、真紅の勇者はサポート系のスキルだ。エンティーナは個人スキルとして【連撃】を持っているが、1対1の戦いでは扱いが難しい。パーティを組んでこそ実力が発揮される。

 他方、漆黒の勇者は単独で力が発揮出来る。特にアシュリーは【身体強化】を2重に持っているため、個人戦でエンティーナに遅れを取ることはない。


 今日は大剣を選び、振り回すアシュリーに対し、細剣で戦うエンティーナは分が悪い。

 攻撃を受け止めると弾き飛ばされてしまうので、避けるしか無い。本来なら、振り回す隙をついて距離を詰めるのが定石だが、【身体強化】を持つアシュリーは大剣を軽々と振り回すことが出来るので隙がない。

 せっかくの【連撃】も、回避行動でリセットされてしまう。

 しばらく拮抗した戦いが続くが、剣同士がぶつかりあった時、エンティーナの細剣が綺麗に折れた。


 黄金のレブライト対紺青のファナン。

 圧倒的な速度の【瞬天】に、レブライトの【予知】が噛み合う。本来なら不可避の攻撃である【瞬天】だが、数秒先を見通す【予知】はその不可避を避けることが可能だ。

 ファナンの目に止まらない攻撃が繰り返されるが、レブライトはその全てを避ける。非現実的な光景に全員が息を呑んで見守る。

 ファナンとしても、思い切って突っ込もうにも、先に回避されるのだからどうしようもない。果の見えない攻防が延々と続く。

 ひとつアイデアはあるが、果たして通用するだろうか。


 一方でレブライトは懐かしさを感じていた。ファナンと戦うのはこれが始めてだったが、初代紺青の勇者とは修行の一環として手合わせをしたことがある。


 ピネイラ・ユークレイド──代々騎士の一家に育った少女だった。

 彼女は3人の兄と父親、祖父全てを魔族との戦いで喪い、その意志を受け継いで剣を取った。家族の仇を討つために全てをなげうって戦う姿は、他の兵士から”鬼神”と呼ばれた。

 勇者の力を受け継いでからは、更に激しく魔族を殲滅していった。死に場所を求めているような苛烈さだったが、本人にとって幸か不幸か勝利のその日まで死ぬことはなかった。

 最後の魔族を打倒した時、使命を果たし呆然と立ち尽くす姿──歓声が上がるなか、彼女一人だけが寂しそうにしていた。


 ピネイラと手合わせをしたときも、今のように攻撃が当たらずに膠着することになった。

 結局は一撃を入れられることになったが、果たしてファナンも同じことを考えるんだろうか。

 あのときは強引に一本を取られてが、果たしてファナンはどうするか。


 ファナンの考えでは、【瞬天】の攻撃が避けられるのは折返しポイントが問題だった。

 まず1回目に【瞬天】が避けられる。その後2回目の攻撃のために振り向く間に、再度待ち構えられてしまう。と、いうことは、振り向くこと無く連続で往復攻撃を加えて、構え直す時間を与えなければ良い。背中から突っ込むことになっても構わないという気持ちが必要だ。

 作戦を決めて踏み込もうとした瞬間──


「まった」


 レブライトが待ったをかける。


「参った。俺の負けだ」


 唖然とする周囲を他所に、レブライトは涼しい顔で帰っていった。

 エンティーナが小声で「何が見えたのかしら?」と呟いた。


 (まさか、ピネイラと同じことを考えるとは)


 こうして決勝はアシュリーとファナンの戦いとなった。

 やはり攻撃スキルを思ったふたりが勝ち抜けた。スキルとはそこまで大戦の結果を左右させるのだ。

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