謁見

 トープグラム帝国帝都レオンハルト「獅子宮殿」


 クロウアリス高等学院の入学式を翌日に控えたこの日、勇者の4人が一同に介し、皇帝へ謁見することになっていた。

 そのような伝統は存在しないが、歴史上初めて4つの勇者が同学年になるということで、皇帝が一度会ってみたいと言い出したのだ。皇帝はたまに気まぐれを言い出すことがあり、この日の謁見もそのひとつだ。

 急遽帝国の役人が街中を走り回り、レブライト以外の3人を集めて回ったのだ。付き合いの長い宰相からは、裏で小言を言われている。


 後光が眩しい玉座の間には、皇帝と数人の側近、そして勇者の子供4人が並んでいる。


 トープグラム帝国第11代皇帝ロイランス・アル・トープグラム


 皇帝はまだ40歳だ。生き生きとした顔にはまだ若さが残る。第2皇子であるレブライトがまだ14歳なのだから、まだ40なのも当然のことだ。

 レブライトと同じ色の金髪を短く切りそろえ、威厳を出すために口元に髭を生やしている。数多の魔物を屠ってきたその肉体は筋肉で引き締まり、奥の方から刺すような激しい眼は、視線だけで敵を縫い付けてしまいそうだ。

 一流の戦士としてのオーラ。そんな屈強な見た目も、荘厳な後光によって見えなくなってしまっているが……。

 前皇帝が病気を理由に身を引き、即位したのが5年前。世界を巡って魔物を退治して回った功績があり、他国からの信頼は厚い。


「アシュリーとは初めて会うな。パワーでは父親を超えたと聞いている。素晴らしいことだ。期待しているぞ」

「私はまだ力だけです。父には敵いません」

「うむ、励めよ。ファナンとも会ったことはないな。母は厳しい女性だろうが、良い顔つきだ。どのような勇者になるか。楽しみだ」

「ありがとうございます。期待に添えるよう努力いたします」

「うむ。エンティーナとは小さい頃に会っているな。美しくなった。見違えたぞ。先月の件は色々と大変であったな。息子が助けられたようだ。礼を言う」

「いえ、陛下には私の不手際を助けていただきました。これからの忠誠でお返しいたします」


 皇帝は顔をよく見てひとりずつ声をかけていく。


「同じ時代を生きる勇者とは、共に世界を護る仲間だ。決して敵ではない。ときには肩を並べて戦うこともあるだろう。今、同じ学び舎で育んだ友情は、将来必ず力になってくれるだろう」


 実際、皇帝も各地を回っているときに、他の勇者と肩を並べて戦っている。

 王家と連携が取れずに手間取っていた真紅の勇者、跡継ぎを失い守りが手薄になっていた紺青の勇者、若い頃によく喧嘩をして殴り合った漆黒の勇者。


「君たちの友情が、この世界のさらなる発展につながることを期待している。頑張ってくれ」


 そうして謁見は終わった。


◇◆◇◆◇


 玉座の間を出た4人は並んで広い廊下を歩く。街中のアーケードを歩いてるような気にさせる豪華な造りだ。


「緊張したわ。やはり皇帝陛下のオーラは違うわね。私、変な事口に出さなかったかしら」


 エンティーナが興奮気味に話す。


「皇帝も仕事だからな、商売用の外面なんだよ」

「レブライト様。その発言、皇子とはいえ誰かに聞かれるとよくありません」


 レブライトの正直すぎる発言に慌てた様子を見せる。宮殿はあまりに広すぎるので、周囲に人は殆どいない。


「ファナンはどうだった?陛下にお会いするのは初めてでしょう?」

「緊張した」

「そうね。あの空間がより偉大さを演出しているわ。あの部屋を作った人は天才ね」

「わかる」


 何故そうなる?あんなのただ眩しいだけじゃないか。レブライトは不思議でならなかった。

 そこで、今まで聞いていたアシュリーが口を開く。


「そうか?俺は眩しくて集中できなかった。もっと普通に会ってみたかったよ」

「だよな!眩しいだけだよな!分かってくれる人がいて嬉しいよ」


 玉座の間に苦言を呈する人が出てきてくれたことにレブライトは感動した。


「何を言っているのよ。それが良いんじゃない。陛下は我々が気軽に直視して良い御方ではないのよ?」

「そうなのか?」

「おいアシュリー、騙されるな。あの玉座の間はよくない。兄貴が即位したら絶対改装してやると心に誓っているんだ。揉めたら俺の味方をしてくれよ」

「それなら私は現状維持派に入るわ。あの素晴らしい部屋を変えるだなんて許さないわ」

「俺は眩しいのは嫌だな」

「アシュリー。お前とは仲良くなれそうだ。一生の友達でいような」


 男ふたりとエンティーナが玉座の間への見解で対立する様子を見て、ファナンは「どっちでもよくないか?」と思ったが、それを声に出すことはなかった。

 ファナンは喋るのは苦手だが、口を噤むのは得意だった。

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