Critical Point ③

 ゆらゆらと揺れる海の上、操舵室の中でイルラシュ近海のマップを机に広げてブリーフィングする2人を横目に、エイリスは1人で今日もよく晴れた空の下で陽の光を浴びていた。まだ新しい本のページをぺらぺらと目も通さずにめくっていると、操舵室の中から大きな声が響く。

「だーかーらーよ! まずは日焼け止めだろ、なぁ嬢ちゃん」

「急に何の話だよ」

「そうだ違う! まずはイギリスに行ってこいつの昔の部下を仲間にするべきだろ、そう思うだろ嬢ちゃん! あと日焼け止めは塗れよ」

「イギリスに行ったところであいつらが居るかも分からない、それに俺は国外追放されててあと2年は入国できない。仮に居たとしても味方って保証もない」

 熱く余計な事も語りながらエイリスに詰め寄るシャーリーと、対照的に落ち着いてリスクを推測するクラヴィスを見兼ねて、エイリスは心底鬱陶しそうに言葉を返す。

「確かに仲間が居れば心強いけど、私は目的とか知らないしそこから先は何も言えない。クラヴィスは悲観的に考え過ぎじゃない? 私の私見は以上、あと日焼け対策はしてるからお気遣いなく」

 相変わらずの憎まれ口で逃げるように操舵室に消えたエイリスに何も言えず、2人はそれぞれの近くにあった物に体を預けて黙り込む。少し落ち着こうぜと言ったシャーリーに、クラヴィスは俺はずっと落ち着いてると返し、再び2人の間に沈黙が訪れる。

「エイリスが1番大人だな。でもよ、思い出すな軍属時代を」

「思い出したくない」

「まぁ楽しくやろうぜ今は、せっかくナポリ市警にも馴染んできたんだしよ」

 少し悩んでからエイリスを呼んだクラヴィスが次に2人に告げたのは、イギリス行きではなく、なんの宛もないフランスだった。

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