第16話 その滝は(とにあさんからいただいたお題「滝」)


 その滝をあなたは知っているだろうか?


 勇者が魔王と戦ったけっして癒えぬとされた傷を癒し、聖なる乙女が異世界から召喚されたとされるその滝を。


 噂はそれだけではない。


 木こりがうっかり斧を落とし困っていると「お前が落とした斧で怪我を負った」と滝つぼから血まみれの女神が現れたとか、水辺で遊んでいた美しい子どもを水妖が攫って水底へと連れ去ってしまった。


 そんな恐ろしい話もある。


 大人から子どもまで知らぬ者はいないその滝の在りかを知る者はいない。


 意図的なのか。

 はたまたそのような呪いでもかけられているのか。


 ただ傷が癒えた勇者が国へ戻り一財産築いた後で、なにかに憑りつかれたかのように狂暴になりその国を滅ぼしてしまったこと。

 召喚された聖なる乙女が元の世界恋しさに一つの時代を終わらせてしまったこと。


 最後には必ず恐ろしい結末を迎えることを考えれば、その滝の所在を突き止め訪れたいと思う者は少ないだろう。


 ただ木こりが責任を取って女神を嫁にもらい幸せに暮らしたことや、両親を失い親戚に虐げられていた美しい子どもが水妖によって救われたことは知られていない。


 良いことも悪いことも表裏一体。


 上から下へと流れ落ちる瀑布の向こうに秘められている真実を手にしたものに全てが与えられると知ったなら。


 あなたは好奇心を抑えきれずその滝を探そうとするだろう。


 いいや。

 私は止めないよ。


 純粋に興味がある。


 あたながどちらへ転ぶのか。


 幸運を手にするか。

 滅びを得るか。


 さあて。

 楽しみだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る