人はみな口に宝石を咥えて

ヒトリシズカ

#0 嬰児の口が開く理由

嬰児みどりごの口が開くのは何故だろうか。


息をするため、目いっぱい空気を吸うためか?

自分が存在ることを母親に訴えるためか?

お世辞にも言葉とは言えない声を発するためか?


どれも是であり、どれも否である。


視えている者はとても少ないが、人は生まれた時から、その人だけの宝石を咥えて生まれてくる。


小さな口に様々な大きさと色の宝石を一生懸命に咥え、それを落とさないように、でも隠さないように、口を開き続ける。


自分はどんな色なのか。

自分はどんな宝石を持っているのか。

自分は何者なのか。


それこそ魂を燃やすみたいに。

全力で、自分は自分だと誇示するために。

嬰児はいつも口を開くのだ。


だがそれはすぐに変わってゆく。やがて嬰児は、俗に言う自我を得て、その宝石を内へと隠し始める。


無くならないように。

傷つかないように。

壊れないように。


関わり続ける他者から己を守るために、人格という鎧を纏い、始めから宝石そんなものなぞ持ち合わせていないかのような顔で歩き出すのだ。


盗まれないように。

傷つけられないように。

壊されないように。


だから、嬰児以外の人の宝石は見難く、多くの人がというように形容されてしまう。


だから私達、その宝石に携わる者は忘れてはいけない。

全ての人には核たる宝石があり、全ての宝石は尊重され、護るべきものだということを。



人類宝石学者 イライアス・ホイトラック著

「宝石の理」より

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