もうろう橋

K

三人と赤い車

「ひさしぶりだな」

「このメンツで旅行は初じゃね?」

「ああ、だな..」


軽快な流行りの曲が流れる、彼らを乗せた赤い車が高速を駆け抜けて行く


渋滞とは無縁の平日、暦では、まだ肌寒い三月でありながらも太陽からは、まるで初夏のような熱線が降り注いでいる。これが大学生の特権なのか、彼らはまるで街の喧騒から逃げるように車を走らせていた


休憩をはさみつつも約二時間、すっかり周りは山に囲まれ、言わずとも非日常が近い。昼食がてら立寄ったサービスエリアのフードコートで、食事を済ませると誰となく今回泊まる宿の話題となった


「どんな感じなんだろな」

「旅行サイトで見た感じ悪くはなさそうだよ」

「高原に立つ旅館..だっけ。ちゃんと予約出来てんのかよ」

「大丈夫だろ」

「まあでも、変わってるよな..少し」


その旅館は高原に立つ。


高原というと、おしゃれなペンションやホテルをイメージすると思う

ここは旅館なのだ


観光地ともなれば、周囲に他の宿泊施設や多種多様の店が点在する場合が多いが、ここの周囲には何も無い


広い高原の丘を見渡せる場所に、いや正確にはその高原の中にという表現が正しいのかもしれないが、そこにポツンと..ただあるのだ


ウェブサイトもレビューも無い


よくそんなところを見つけ、よくそんな場所を予約したものだと彼らは自分達で思う。男三人、どうせ行くならネタになるような場所がいいと言い出したのは琢磨だった


「ここからどんくらい?」

「あと二、三時間はかかるかもな」


三人を乗せた赤い車は、まるで急ぐかのように再び高速に戻っていった

その軽快な車の後ろ姿には何故か、切なく儚い、哀愁にも似た何かが漂っていた。









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