第24話「もう一回通報を……誰かが犠牲にならなきゃいけないということだろう」

 程なくして、モニターが点灯する。

 画面が切り替わり、何処かの部屋の中が映し出される。少なくとも、マコたちが行ける範囲内で見た記憶はない場所だ。

 画面の中央に、手錠を後ろ手に嵌められた眼鏡の男が立たされていた。


『これより刑を執行する!』

 画面の中央にタイトルといったように、ポップなテロップが現れる。

──偽りの仮面。

 そう書かれていた。

「偽り? なんだ、それ……?」

 テロップの文字を声に出しながら間石は首を傾げる。

 しかし、良いものでないことは誰もが予測できた。


 そして──映像を見た間石の顔がみるみる青褪めていく。

 その凄惨な光景に恐怖し、目が離せなくなってしまったようだ。


 モニターを前にみんなは固まり、身動きが取れなくなってしまった。



 ◆◆◆



 眼鏡の男の背後の壁に、無数の仮面が出現する。一つ一つ、表情や作りの違う仮面が唐突に、映像が進んだと同時にパッと壁一面を埋め尽くしていた。

 画面の端から一人の人物がフェードインしてきた。

──制服姿の婦人警官である。羽を広げた蝶々のお面をつけていた。

 その婦警は、壁から仮面を一つ手に取った。透明な仮面だが、目の部分だけ──白目と黒目の部分だけ描かれていた。

 婦警はそれを眼鏡の男の顔に装着する。


『ぎゃぁあぁああぁああ!』


 途端に、眼鏡の男は悲鳴を上げて苦しみ始めた。


 画面を観ていたマコたちには意味が分からなかった。ひたすら眼鏡の男が苦しみ、悶える様を見せられ続けた。


──やがて、婦警はそんな眼鏡の男の顔から仮面を取った。

 すると、眼鏡の男の顔面に異変が起きていた。顔の真ん中に二つ──本来ならそこに目があった部分が──ぽっかりと穴があいたように黒く塗り潰されていた。


 次いで、婦警は壁から鼻と口のみが描かれた透明な仮面を手に取る。

『や、やめてくれぇぇっ!』

 怯えた眼鏡の男が悲鳴を上げ、暴れた──。

 しかし、婦警は躊躇することなく問答無用にその仮面を眼鏡の男の顔に装着したのだった。

『んんぅうぅぅっ!』

 悶絶する眼鏡の男は、がっくりと項垂れて動かなくなってしまう。


 婦警は眼鏡の男の顔から仮面を取る──。

 本来あるべき場所に、目も鼻も口もなくなっていた。


 容赦なく、婦警は次の仮面を選び始める。

 今度は頭頂部から顎に掛けて真っ直ぐな線の入った仮面を持って来た。 それを眼鏡の男に嵌めた。

 すると──眼鏡の男の顔面が中央から左右に切断された。

 血こそ出なかったが顔の右半分と左半分が離れ、それぞれ落下していった。


 すかさず画面が暗転する──。

『これにて、刑の執行は完了致しました』

 スピーカーから、警官の声が響いた。



 ◆◆◆



 誰の口からも、言葉は出なかった。みんなその映像に恐怖し、立ち竦んでしまっていた。

『本日の残り検挙目標は一件です』

 最後に、警官からお決まりのアナウンスが流れた──。


「……えっ?」

 綾咲が顔を顰める。

「残り、一件……? そんな、どういうこと?」

 不思議そうに綾咲が頻りに首を傾げているので、間石が尋ねた。

「どうしたんだよ? それがなにか変か?」

「前回の佐野君の後も一件って言っていたわよね? ……つまり、この件はカウントされていないってことじゃないかしら?」

「あ? どういうことだ?」

 察しの悪い間石とは違い、足達も清澄も何かに気が付いたようで、険しい顔付きになる。

「カウントが減らないということは、まだ続くということのようだな。もう一回通報を……誰かが犠牲にならなきゃいけないということだろう……」

 足達がその可能性を口にしたので、場は凍りついた。


「……まぁ、そもそもそのカウントに意味があるかも怪しいけれど。……まぁ、残れるのは私達の中の一人だけって言ってたしね……」

 綾咲は溜め息混じりに呟いた。

 罪深き者たちの罪をどんどん立件し、残った最後の一名のみが助けられる。罪を犯さない善良な市民──それを勝ち取るために、マコたちは無益な争いを強いられていた。


 それっきり何のアナウンスもなく音声が切れてしまったので、制服警官にあれこれ尋ねるのは無理そうだ。

 映像も暗転したままになったので、この件はこれにてお開きとなる。


 解散となり、またそれぞれ自由な時間を過ごすことにした。

──果たして休むことなど出来るのだろうか。

 マコは泣き崩れ──清澄は嗚咽を漏らし──間石は震えていた──。


 ズタボロに傷付いた精神を少しでも落ち着けようと、一同はそれぞれの部屋へと帰っていくのであった。

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