第4話

 仕方ないなと俺は立ち上がり部室を出ようとすると「ウチも手伝う!」と浜辺が名乗出てきた。

「待って」

 神下がまた声をかけてきた。今度は何だよとそちらを見る。


 神下は鞄を肩に掛けてこちらにずかずかと歩いてきたかと思うと不意に右手を突き出す。

 ほんとに何なんだよと思って彼女の右手を見ると鍵が握られていた。

「今日はもう閉めるわ。職員室に用があるならついでに鍵返してきてくれるかしら」

 俺が受け取らずにまごまごしていると机に置かれた鍵はジャラッと音を建てる。

「じゃあ」と短く呟くと神下は足早に部室を出て行った。


 何があるわけでもないのに自然と俺たちは間を置いてから部室を出る。

 廊下を歩いて行き、階段の手すりにしっかりと手を掛けると浜辺はゆっくりと語りだした。

「あのねフルっち……、ゆきなちゃん別に怒ってるわけじゃないから気にしないで」

 俺たちは1段1段階段を降りていく。

 そうなのか? と俺は目線で聞き返す。

「ゆきなちゃんさ、この部活のことっていうか、人助けになるとたまに自分の世界みたいなのに入っちゃって周りが見えなくなるていうか……」


 確かにあいつは依頼者が来ていない時こそ読書してるだけの大人しい美少女だが、依頼が来ると自分ルールを引っ提げて、解決まで突き進もうとする。その気迫は別人かと思うほど凄まじい。


「その、だから……。みんなのこと助けたいと、力になりたいと思ってるはず。フルっちのこともウチのことも」

「だとありがたいな」

 浜辺の必死に擁護する姿にこれ以上言葉を発しないのは悪いと思い、俺は毒にも薬にもならない返事をする。


「あ、でもフルっちのことはちょっとライバル視してるのかも? ほら、この前の依頼はフルっちがほぼやっちゃったから」

「なんだそりゃ」

「だから、今日はいっつもより怒ってるみたいに見えた。きっと何か思いついて、今度は勝つ! って思ってたんだよアレ」

 勝手にライバルとして見られた上に悪態をつかれるのは困るとは思ったが苦笑する浜辺に対してそれを言うのは憚られた。

 彼女はまだ3段ある階段をヒョイと跳び跳ねて踊り場に着地すると、こちらを向き直る。


「だから、こういう時はそっと見ててあげてね。でも本当に危ないときは助けてあげてね。ウチもそうするからさ……!」


 元々成り行きで部員として参加してしまっただけで程々に頑張るつもりだったが今日まで関わって、ここまで話を聞いてしまった縁だ。


「善処する」


 俺も彼女につられてまだ2段ある階段をよっと跳んでみた。

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