第2話

 再び、扉がコンコンと叩かれる。

「どうぞ入ってください」

 神下がそう言うと扉を開け女子生徒が入ってくる。

「こ、こんにちは野村と申します。お悩み相談をしてくれる部活で合っていますか?」

「そだよー! よーこそ何でも部へ!」

 部屋の隅から椅子を運びながら満面の笑みで浜辺がそう言う。

「はい、お茶どうぞ。お菓子も自由に食べていいから」

「ありがとうございます」

 神下は客用の紙コップにお茶を入れ、お菓子の皿を野村と名乗った女子生徒の方に寄せる。


 俺は手持ち無沙汰になり、本に栞を挟み、自分の椅子を気持ち来客の方に向けることで妙な間を誤魔化す。

「それでは、あなたの依頼について教えてくれる?」

「はい、人を探してほしいんです」

「どんな人かしら」

 ほう、人探しか。まるで探偵の仕事だ。探偵といえばどうしてもシャーロック・ホームズや小学生にされちゃった高校生探偵のイメージが強いが実際の探偵は浮気調査・身辺調査・人探しが主な業務だ。

 ここは探偵部(そんな部活は普通無いと思うが)ではないのにどうやら神下はこの依頼を受けるつもりのようだ。

 これも何でも部の活動の範疇ということか。本当に何でもする気らしい。


「えーと、茶髪で……」

 茶髪と言われて向かいの席に座る浜辺の方を見る。こいつも茶髪と言えば茶髪だが、茶色がかった黒と言った方が正確だ。光の当たり具合でどうとでも見える。おそらくは地毛なのだろう。もし染めてたとしても教師がスルーしてしまうくらいの染め方だ。

「茶髪って、どれくらい茶色いのかな?」

 浜辺が似たようなことを思ったのか。野村に問う。

「かなり派手に茶髪です。もし染めてないなら地毛証明書―― が必要なくらいには」


「その人は男子なんですけど、入学式の朝に廊下ですれ違ったときにその……」

「ちょっといいな、と思って……」


 あーはいはい、そっち系ね。俺が心の中で茶化していると向かいの席の椅子がガタっと引かれる。

「マジか? おー! いいじゃんどんな顔? イケメン?」

 浜辺が騒ぎ立てる。うるせぇ。

「そうね。もっと詳しくどんな顔だったかうろ覚えでもいいから教えてくれるかしら?」

 対して、神下は落ち着いた様子で手帳を取り出し、依頼者を促す。


「えーと、まずネクタイの校章が1年生のでした。確か目はキリっとしてて、身長高くて――」

 ふむふむと、神下はペンを進める。浜辺は俺が知る限り、過去一で集中して依頼者の話を聞いている。女子は恋バナ好きというイメージ通りに彼女は恋バナが好きらしい。

 俺は他人の恋路など興味は無かったが、その男の髪色について学校側がどういう扱いをしたのかがちょっと気になったので聞き流すくらいはしていた。


「出来た……!」

 神下がちょっと自慢気な声をあげ、全員に見えるように手帳を真ん中に置く。

 尋ね人の特徴を書き留めているのかと思っていたがそうではなく、彼女は似顔絵を描いていた。

 おお、こいつすげぇ絵上手いな。


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