第8話

 休み時間になり、Twitterを弄り倒して最後の詰めをしていた。

 幸いにもこの高校ではスマホの使用は授業中以外は特に制限されていない。これは俺のような休み時間につるむやつが少ない人種にも優しい。


 そういえばと思いクラスを見渡すが神下や浜辺の姿は無い。俺がいくら周囲に興味が無いとはいえ、昨日の彼女らの反応で既に予想が着いていたことだがやはり別のクラスらしい。

 神下と浜辺は性格があまり似つかない。2人の交友関係はどうなっているのか流石にこの度は気にはなったが他のクラスを覗いて悪目立ちしてまですることでは無い。

 何より今は最後の詰め、一発でも多く弾を撃っておくことが優先だった。



 放課後。

 職員室前で俺は入部届用紙を何枚か頂戴し、早足で体育館へ向かう。相も変わらずバトミントン部は楽しんで部活動を繰り広げている。

 彼女らも決してふざけているわけではない。むしろ今日突然、スパルタ鬼コーチが入ってきたとしたら俺の計画に支障しか出ない。なのでそのまま続けておいて欲しい。


 体育館の2階、ギャラリー席がある方を見ると2人の男子生徒が座っている。

 成功だ!

彼らが入部してくれるはずだ。Twitterでの呼びかけに答えてくれた2人だ。

「そこの二人、これ見てここに来たで間違いないよな」

俺はアカウントの画面を見せる。


彼らは俺と同じで部活が決められず昨日今日までいた人たちだ。

彼らは決してバトミントン部に入りたかった訳でも、今入りたい訳でも無い。


だが、どこかは選ばなければならない。でも彼らは選べなかった。

だからその手助けをしてやることにした。


「あの、ここに来たら部活を選ぶのを助けてくれると聞いて……」

男の一人がそう言う。


俺は「萬高での部活選択を困っている人へ」とド直球なアカウントを昨日作っていた。そのアカウントで体育館2階ギャラリー席で待っていれば選ぶのを助ける旨を呟いた。

普通は今日昨日出来たアカウントでは怪しさ満点なのでまともに取りあわないだろう。しかし、彼らは非常に困っていた。

もう既に選択肢は狭まり、まさに藁にもすがる思いだっただろう。それ以前に彼らは自分で行動を起こせないタイプなのかもしれない。だから見ず知らずの他人でも頼ろうとした。


さて、このまま彼らを練習が厳しいと言われるラグビー部や剣道部に送ることも不可能ではないが今回はバトミントン部に来てもらおう。

そのためにここ体育館を選んだ。


「ところでここからバトミントン部が見えるだろ。見てどう思った」

「え、そうですね、お遊びっていうかすごくユルい感じというか……」

「そうだろ。ここならやってイケるんじゃないか? 入部するだろ?」


そう言うが早いか、入部届用紙を2枚を彼らに突き出す。

彼らはきっと運動部と言うだけで忌避していただろう。何ならどこの部活も今日までまともに見ていなかったかもしれない。俺がまさにそうだった。

だからここでまずはここのバトミントン部がどういうものか見てもらう場を創った。


「いやでもやっぱり運動部は嫌だな。女子ばっかりだとやりにくいし……」

もうひと押しでいけるか? 俺は追撃する。

「運動部はいいぞ。活動がユルユルでも運動部ってだけで社会的な印象が良い。就職に有利だ。しかもバトミントンなら大学に行ってからもちょっとした機会にやることがある」

俺が真実とも虚言ともつかない理屈を語っていると階段を駆け上がってくる足音が2人分。

「ごめん! ホームルームが長引いちゃって!」

「ごめんなさい、古木くん。それでその2人が入部希望者かしら……」

走ってきた神下と浜辺は息を切らしている。特に神下がゼエゼエ言っているが大丈夫なのか。状況が呑み込めていない2人だがちょうどよかった。ベストタイミングかもしれない。利用させてもらおう。


「俺はこの2人と部活やっているんだ! 女子2人の中に男子1人。それでも上手くやれている。あんたらは2人だろ。女子4男子2、男子2人ならそこまで気にすること無いんじゃないか」

男2人は「確かに」「そうなのか」などと話し合っている。


「別に幽霊部員でもいいんだぞ。部活強制と言ってもそれだけだ。実際に参加しているかまでは逐一見ない。それにもう今日決めるしかない。とりあえずでも今日中に入部届は出すだけでもしなければ」

そこにとどめの一撃。


ポケットからペンを取り出し改めて入部届の用紙を彼らに突きつける。

斯くして、バトミントン部の部員は6人となった。

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