第39話 六月二週(⑧)

 確かに俺は、いつの間にか南に心を開いていた。

 一番仲の悪い女子だと思っていた、あの南に、だ。

 それも、高校に入学してからの僅かな時間で。


 その事実は、日置の言葉に説得力を持たせた。


 しばらく俺は返事もできなかったが、日置がそれ以上何も喋らなかったため、口を開いた。


「……お前の言う通りだ」


 何とかその言葉を絞り出したが、日置からは特に返事がない。

 このまま話せ、ということだろう。

 俺は、何も誤魔化してはいけないような気になって、続けた。


「『苦手だ』って、『関わりたくない』って思っていても、気持ちなんて簡単にひっくり返っちまう。俺自身がそうだった」 


 その反対だって、あるのかもしれない。

 南からは、中学時代に良く一緒にいた友人達の話を聞くことはない。


「同じことが南と茂田の間に起きないなんて、言い切れる訳がない」


 どんなことでも、きっかけ一つだ。

 そのきっかけが、良い方向に転ぶか、悪い方向に転ぶかだけだ。

 俺は話しているうちに、自分の体が熱くなってくるのを感じる。


「『告白するから』って茂田に言われて、最初は驚いただけだった。それで、お前の話を聞いてるうちに、不安と言うか、嫌な気分になった」


 自分で自分の気持ちが解からない。

 いや、目を逸らしていただけかもしれない。

 正面から向き合って、ようやく解かった気になった。


「今、口に出して思ったけど、告白、してほしくないんだ」


 俺は、茂田の告白を拒否する権利はなかったが、拒否する理由はあったのだ。


「駄目だ、誰かが南に告白するのが嫌なんだ。南が誰かと付き合うなんて」


 日置はその言葉を聞いて、俺の方を見ずに頷いた。


「……なんでか、解かるか?」

「……ああ」


 答えは簡単だった。

 解かってしまえば、あっさりと口から出た。

 それは、『友達として』なんかではない。

 

「俺、南のこと、好きみたいだ」

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