第25話 結婚式、できるかな?


 いろいろ、わからなくなったけれど。


 なんか、悩んでも仕方ない気がしてきた。

 人の意識を保っていても、身体はイカ、もといクラーケンだ。

 そういうものとして、受け止めるしかないんだろうな。

 たとえ私がピアニストだとしても、指がないんだから仕方ない。そういうものだ。


 ただ、そう割り切ってさえしてしまえば……。

 あこがれのハワイ挙式なんだよね。それも、恋人と2人きりの。

 海の底ではあまり代り映えしないかもだけど、それでも女子ならば一度は憧れるシチュエーション。


 そう思ったら、いきなり元気出てきた。

 私って現金な性格……、いいや、女子はみんな現金なのよ、そういうときは。

 そして、ハワイで式を挙げたあとに、初夜……。

 きゃー、もうこれ以上は考えられないっ。

 たとえ、仁堂くんの足が私の口の周りを撫でるだけだとしても、それはそれ。

 抱き合って、瞳と瞳を合わせることは別だもんね。


 となると……。

 「仁堂くん、ハワイに知り合いいないかな?」

 「穏田先輩みたいな?」

 「そう!」

 「いないなぁ。

 転生した人がいたとしても、きっとアメリカ人だよ。

 あおり、英語喋れるん?」

 えっ、こっちに振りますか、仁堂くん。


 そんな自信なんかないけど。

 でも、少しはデキる女感を出したいよね。

 「……少しは」

 そう答えてしまった私ってば、がんばりやさんで少し可愛いかも。

 はぁ……(ため息)。


 「じゃ、任せた。

 誰かいたら、話してくれる?」

 まさかの丸投げですか。

 「それはダメ」

 「なんでよ?」

 「だって、怖いじゃないっ!?」

 我ながら、なにを言っているかわからない。



 「……気持ちはわかる」

 あ、仁堂くん、わかってくれるんだ。

 うれしい。

 「でも、そもそも知り合いがいるかを聞いたのはあおりだよ」

 そう言われて、私も最初のきっかけを思い出した。


 「誰か知っている人がいたら、その人に……」

 「その人に、なに?」

 「牧師さん? 神父さん?

 よくわからないけど、その役割をお願いできれば、結婚式ができるなって」

 「なるほど……」


 仁堂くん、そうつぶやいたあとは黙ってしまった。

 たしか、仁堂くん、ハワイは行ったことないって言ってたよね。

 だから、知り合いがいるかいないか以前の話かもしれないけれど、でも、仁堂くんてば、私からするとすごく顔が広く見えるんだよね。だから、ともだちのともだちがいるかなって思ったんだ。


 それに2人きりの結婚式だとしても、「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、その命ある限り夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」って聞かれたいじゃん。

 そして、うつむいて、「ハイ」って答えたいじゃん。

 で、ベールを持ち上げられて、誓いのキス……。

 きゃー、もう、ほんとうにきゃーだわっ。


 私、その時は仁堂くんのお姫様になるのよ。

 クラーケンだけど、お姫様っ。

 

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