第22話 新たなる旅路


 仁堂くんと揃って手をふる。

 穏田先輩も、ゆっくりと胸鰭を翻してあいさつをしてくれた。


 お互いに、たぶんまた会えるだろうとは思いながらも、どことなく覚悟はしている。

 だってさ、ここは一つ気を抜いたら喰われてしまう世界だからね。

 私は仁堂くんにくっついて、そんなに危ないなんて思わずに済んでいるけれど、実はそれなりに危ないっていうのもわかってきているよ。


 でも、たとえそうでも……。

 私たちは行く。

 回遊は定めだから。

 そして、その旅路には、仁堂くんがいるから。



「暖かい所が良いよね」

 って2人で行き先を決める。

 でも、来たところには戻らないほうがいいだろうから……。

 「どうしようか?」って言ったら、仁堂くんが凄いアイデアを出してくれた。


「ハワイに行こう」

「ハワイっ!?」

 一も二もないよ。

 大賛成っ。

 いつか行きたい観光地、私の中の第1位。

 就職してお金が貯められたら、絶対行こうと決めていた場所。

 ただ、まさか泳いでいくことになるとは思わなかったけれどね。



 私たちの巨体を持ってしても、海の広さには到底及ばない。

 結果として、長い旅になる。

 それを覚悟して泳ぎだして、たった3日目のこと。

 深海でいつものように手をつなぎあって、「あおり、君だけだよ」って仁堂くんに言わせて、私はうふうふしていた。

 だけど、仁堂くんは悩んでいた。

 それを今日、私も気がついた。


「どうしたの?」

 そう聞いても、仁堂くん、白状しない。

「なんでもない」

 って、絶対なんでもなくない。


 ここで私、困ってしまった。

 だってさ、他の女子が好きになったとか、そういう心配はまったくない。

 深海で2人きりだからね。

 でも、だからこそ、仁堂くんの悩みは、私自身が気がつくか、本人が言い出してくれないとわからない。


「お願いだから、言って」

「なんでもない」

「私がなにか悪かったのなら謝るよ。

 ごめんなさい」

「いや、あおりはなんにも悪くない」

「じゃあ、どうしたのよ?」


 仁堂くん、下向いちゃった。

 そのままゆっくりと沈んでいく。

 私、腕で仁堂くんを抱いて泳ぐ。


「穏田先輩のいる海に戻る?」

「それは……、嫌かな」

「じゃ、このまま進もう」

「ああ、それがいいな」

 むう。

 仁堂くん、いつもの覇気がない。


 私、悩んだ挙げ句、こう言った。

「そこまで言いたくないならいいよ。

 でも私、心配しているから。

 そして、いつでも悩み、聞くから」

 そう伝える。

 だってね、それしかできないから。


 海の生活は、たとえ元の知識は穏田先輩のものだったとしても、私の先生は仁堂くんだ。

 私は、なにがあっても仁堂くんに寄り添う。

 そう決めたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る