第6話 立ち入り調査・上

獣人国家フォレストによる国境奇襲。


陽動を使って彼らは結果的に俺達の国の領土を占領した。


つかの間だったらしい平和は壊れてしまった!


この国の上の連中は色々交渉したらしいが、結局拗れて交戦状態に。


開戦から約1ヶ月の時が過ぎた。


今のところ前線の兵隊として駆り出されてはいない。


だが輸送車を使って物資輸送を前線との間で何度もやるため正直ヒヤヒヤしている。


この前も俺らの乗る車両の後方を走っていた味方がやられていた。


そんな俺らの事を前線送りにされた奴等は若さをもて余してると陰口叩いてくる。


我ながら短気な性分で陰口を叩かれるとカッとなりやすいのだが、不思議と彼らに怒りが湧かないものだ。


おそらくその陰口がそいつと俺の最初で最後のコミュニケーションだからだろう。


時たまアテが外れるがそれはそれで嬉しい話だ。


俺はドMなのかも知れない。


そんな形で補給任務を終え都に戻ってきた翌日、俺は伍長と共に軍曹に呼び出されていた。



「冒険家ギルドの立ち入り調査?」


「正確には立ち入り調査をする役人の護衛だ」



軍曹が言う。


冒険家ギルドってまさか定番のアレか。


この世界にも存在していたのか?



「冒険家ギルドって、冒険家とか勇者にクエスト渡す場所ですよね」



俺は尋ねた。



「ロクでもない連中だ。糞食らえってな」



いきなり軍曹の口調が悪い。


何か琴線に触れたのか?


理由が分からんまま、俺と伍長は役人との合流場所まで向かう。


移動中、俺は助手席でボヤいた。



「何であんな機嫌悪かったんだろう軍曹…」


「そりゃ冒険家ギルドだから。良い気分はしないさ」


「どういう事です?」


「その辺も抜け落ちてるってか?」



すませーん。


ホントすまんと思った。


だがどうやらこの世界では冒険家やギルドはあまり好感が持たれる場所じゃないらしい。



「そもそも冒険家って存在自体曖昧だからね。昔なら未開の地発見とか魔王討伐って役目があっただろうが、今や殆ど地図は埋まってるし、魔王はそもそも実在するか不明確な存在……まぁ魔物は確かに居るからもしかしてって位……俺らでも最近は倒せるくらいだけどね」


「へぇ~魔王居ないのか…夢がないなぁ…」



やや浮世離れした感想を溢す俺。



「何いってんだ?ただでさえ人間同士でこんなやりあってんのに、魔王まで参戦したら世界滅ぶぜ?」


「それはそれでやだなぁ…」


「まぁ専ら今の冒険家の仕事は魔物討伐だろうね。表向きは…」


「表向き?まるで本命は別に色々あるって感じだね」


「役人に会えば分かるさ。そもそも奴等は冒険家という肩書きをつけてる間は無国籍だし」


「はぁ!?それってどういう………」



はじめて聞いた話だ。


だが考えてみたら、異世界での冒険家の国籍なんて考えた事がなかった。


少なくとも俺は間違いなく。



「昔からのルールだ。国籍があると奴等がトラブった時に、国がある程度動かなきゃいけない。無国籍化することで奴等が他国で囚われたりした場合でもこちらは一切手を出す必要がないんだよ」


「まるで俺達には人権があるみたいな言い方だな?」



兵隊は死地に行きまくるしな。


まぁその中でもトップクラスのぬるま湯に配置されてる俺が言えた口じゃないが。



「建前って奴だろ。昔なら兎も角、俺達ベーシックは他二族より文明人として成熟してる。その反面で成熟しきってなかったり、わざとぼかしてみるような卑怯者の人種がいる以上、冒険家ギルドは悪の苗床になりやすいんだよ」


「色んな所出入りするからなぁ」



冒険ともなるとわざわざベーシックの領地だけをグルグルやってる訳じゃないのは分かる。



「まぁ実際はロウリスク&ハイリターンだって話さ。税金はかからず、ギルド発行の通行証でどこでも行き放題。一発当てれば億万長者の勝ち組………奴等はいつもそう言う」


「その割に伍長は辛辣だけど?」


「知ってるからだ。一人の成功者の裏側に数万の地獄絵図。一番見知ってた奴は最近フォレスト領にいたらしく捕まったって話だしね」


「そいつって俺らと同じベーシックか?」


「いや耳人だ。嫌な奴だったよ……まぁフォレストはマトモに捕虜対応の条約なんて結んでないし多分生きてないだろうな」


「はぇ~」



兎に角、博打的な職業であるって事はかなり伝わった。



「だがなんで俺等が護衛なんだ?ただの立ち入り調査だろう?」



これは純粋に疑問だった。


この辺り伍長は知ってるのだろうか?


「詳しくは分からん。わざわざ憲兵や公安を使わないで俺らだからなぁ。ただ冒険者ギルドはベーシックのみならず、エルフやビーストも普通に出入りしてる。リスキーなのは確かだな」



戦争が始まったと言っても、あくまで獣人国家の一つフォレストと、俺達ベーシックの一国家が戦争を行ってるに過ぎない。


最もそんな状況でこの国の冒険家ギルドに出入りしてる獣人やエルフだから只者ではない。


そして俺達は役人との待ち合わせ場所に到着する。



「もう遅いじゃないの!!私を待たせるって事がどういう事か分かっているの!」


(うわっケバッ!)



ぷんすかした状態で待っていたのは、役人とは思えないほどラフな格好をした肉感的な体躯の金髪ツインテールの女性、いかにもな役人二人の計三人だった。


顔立ちは悪くない。


だが好みじゃない。何故か?


この世界の俺はそこそこ視力が良いらしい。


無理して見せた露出肌から僅かに誤魔化しきれなかったほうれい線を幾つか見てしまい、割りと歳を食った女性であると言うことを俺は知ってしまった身体。



「軍から護衛で来ました」


「キジョウ・タガメよ。冒険者ギルド対策課の」


「冒険者ギルド対策課?」


「冒険者ギルドがちゃんとただの冒険家だけを使ってるかどうかを取り締まる役場の部署よ。無国籍である上に、多種族入り乱れた組織である以上、あらゆるリスクが想像できるわ」



ラフな格好に濃い化粧。


年甲斐もない見た目。


褒められるのは肉付き位か。


しかし脱いだら分からん。



(今の俺に経験の記憶は無いがこの歳で食ってない訳はない。おそらく身体に刻まれた経験値がこいつが脱いだ時のヤバさを何となく直感させてる気がするぜ……ってイカンイカン!)



思わずマジマジ評論してしまった俺はとりあえず直ぐに自戒した。


こうして俺達五人は車を使い、この街に複数ある冒険家ギルドの一つに向かう。


他二人は兎も角、後部座席に乗せたタガメはまるで立ち入り調査というより夜の店に行くような雰囲気だ。



(これじゃ俺等ただの送迎係じゃん)



まぁ運転をしてるのは伍長だが。


ついでにドア開けも伍長がやった。



(このままでは置物だな………窓際係、壁奥係……うーんっ)


「随分派手な格好ですね。立ち入り調査には必要なんですか?」



俺は嫌み交りで聞いてみた。



「そうよ。あそこは真面目な格好で行くと人を馬鹿にするのよ。冒険家ってそういう奴等ばかり。軍人さんには申し訳ないけど」



愚痴るようにタガメは言う。


この辺りは半分位マジっぽい。


ただ半分趣味もありそうだが。



「いえ、何分俺入りたてなモンで貴方を守れるか心配になったんですよホラッ!俺らみたいな野蛮な連中より、親しみのある公安とか~気品溢れた憲兵の奴等の方がレディーを守れるんじゃないかなと思って~」


「あらどうも。頑張ったのね」



はぁ??なんだてめぇ。


小馬鹿にしたような笑みを浮かべるタガメ。


ただ雰囲気や表情は絶妙に似合う。


要は様になっている。


若い頃はかなり大手を振ってこれたのだろう。



「護衛と言う件では貴方の言う通りよ。でも彼らは冒険家ギルドと近すぎるのよ」



車のドアガラスから見える景色を見ながら憂鬱げにタガメは言った。



「近すぎる?」


「立ち入り調査は抜き打ち。街に常駐してる憲兵団や公安は情報が筒抜けになりやすい。グルになってる奴もいるからな」


「マジかよ…」



消去法で正規軍が頼りになるらしい。


というのも軍隊は軍曹や伍長に限らず、かなり上層まで冒険家やギルドを敵視してるという。


それでも軍の一部であるはずの憲兵団が汚染されてる辺り、俺が思っている以上に冒険家ギルドとは実は闇深いのかも知れない。



「さーって、到着っと……」



伍長が車を止める。



「ここが…」



かくして俺達はギルドハウスに到着したのだった……。


(続く)

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