第17話 浄化完了

 洞窟を浄化した私たちは、アッシュウルフ以外の瘴気持ちの魔物がいないか探索。


「……他に瘴気を持っている魔物はいないみたいだね」


 いくつかアッシュウルフが縄張りにしていた場所を浄化しながら回ったが、瘴気の気配はまったくない。


「ソフィア様がそう言うのであれば他にいないのでしょうね。私も何も感じることができません」


「今回の瘴気はどこからやってきたんだろうね?」


 二十年前であれば、魔王やその眷属が暴れ回っていたのでそこかしらで瘴気がばら撒かれていたし、瘴気持ちの魔物も多かった。


 しかし、魔王を討伐してから瘴気の広がりは大幅に無くなり、アークたちの努力によって瘴気の拡大は抑えられている。今は二十年前ほど瘴気がその辺に散らばっているわけではない。


「どこかの土地から瘴気を持った魔物が流れてきたのか、あるいは魔王の眷属がここに瘴気を撒いていったのか……」


 アブレシアの周りは、アークのお陰で特に平和だと聞いた。


 それなのにクルトン村の傍にある森でアッシュウルフは瘴気を宿していた。


 この瘴気はどこからやってきたのだろう?


「いずれにせよ、しっかりと調査をする必要がありますね。そちらは村長が救援で呼び寄せた教会の者に任せることにいたしましょう」


 しばらく考え込んでいるとルーちゃんが建設的な意見を述べてくれた。


 討伐し、浄化したのは私たちだが二人だけでクルトン村周辺を調査するのは無理がある。


 仕事を途中で抜けるようで少し気まずいが、元々、私たちは偶然立ち寄って割り込んだだけだ。


 これ以上の仕事は正式に依頼された教会の人たちに任せるべきだろう。


「うん、そうだね。クルトン村に戻ろう」


 そのように判断した私とルーちゃんはクルトン村に戻ることにした。


「見習い聖女様! 聖騎士様! 森の方はどうでしたか?」


 クルトン村に戻ってくると、村長とリュートが慌てて家から出てきた。


「瘴気持ちのアッシュウルフがいましたのでルーちゃ――じゃなくて、聖騎士ルミナリエと私で討伐いたしました。遺骸や瘴気に侵された大地も浄化しておいたのでこれ以上広がることはないでしょう」


「本当ですか!? ありがとうございます! 女神セフィロト様のお導きに感謝を!」


 私が報告すると、村長は両手を結んで祈る。


 この村長は少し信心深いのかもしれないね。


「とはいえ、瘴気がどこからやってきたのかは判明しておりません。救援を頼んだアブレシアの教会の者たちにしっかりと調査をしてもらうといいでしょう」


「そうですね。まだ完全に安全とはいえないですから。気を緩めないようにし、村人にも森へ向かうのは控えるように伝えます」


「それがいいでしょう」


 村長の言葉にルーちゃんがしっかりと頷く。


 うちのルーちゃんが実に大人っぽく、聖騎士っぽい。


 でも、私からすればまだ昔のイメージが強いので背伸びしているように見えて微笑ましい。


「なにか?」


 私がジーっと生暖かい視線を向けていたからだろうか、ルーちゃんが怪訝な表情を浮かべる。


「なんでもないよ」


「……なにか失礼なことを考えているようにみえます」


「き、気のせいだから!」


 ルーちゃんが鋭い。確かに不躾に眺めていたけど、それだけでわかるものなのだろうか。


「見習い聖女様、聖騎士様、友人だけでなく他の奴まで治癒していただいてありがとうございます」


 私とルーちゃんがそのようにじゃれ合っていると、リュートが真剣な眼差しで頭を下げ、感謝を伝えてくる。


「いえいえ、これくらい当然のことですよ。何か困ったことがありましたら、今後はすぐに教会にご相談ください」


「はい、今後はそうします」


 すぐにじゃれ合うのをやめた私は、しっかりと営業スマイルをした。


 それと同時に今後は手遅れにならないようにすぐに教会に相談するように釘を刺した。


 村長やリュートにその意図はしっかりと通じたらしく、深く頷いてくれた。


 今回は瘴気の被害が軽微だったけど、もう少し遅れていたらリュートの友人は助からなかったかもしれないし、多くの被害が出ていたかもしれないからだ。


 次に似たようなことがあり、怪しいと感じたらならすぐに教会に相談してほしい。


「あ、あの、今回のお布施の方なのですが……何分田舎なものなので懐が寂しく……」


「今はこれくらいしか払えませんが、後日必ず追加の分をお渡しします!」


 村長が申し訳なさそうにお金の入った皮袋を渡してき、リュートが必死になって叫ぶ。


「お気持ちだけで結構――」


「ゴホンッ」


 小さな村なのであまりお金がないことはわかっている。


 別にお金には困っていないので遠慮しようとしたが、後ろにいたルーちゃんが意味深な咳払いをした。


 ……ちゃんと受け取れってことですね。


 二十年前は瘴気の被害が凄まじくて、このような小さな村ではあまりお金を受け取らないのが暗黙のルールであり、それが聖女ソフィアとしての名声を高めていた。


 しかし、以前と状況は変わり、聖女ソフィアとしてのしがらみも関係ない今では、お布施を受け取っておくのがいいのだろう。


 無償による治癒や浄化をしてしまえば、教会が成り立たなくなってしまう。


 生臭い話ではあるが聖女を育成し、教会を運営するにもお金は必要なのだ。


「わかりました。しっかりと受け取りましょう。ただし、追加のお布施はいりません」


「ソフィア様?」


「その代わり、私たちが一泊できる家の提供と旅をするための物資の融通。それと後ほどやってくる教会の者を暖かく迎えて頂ければと思います」


 無いところから無理に搾り取っても仕方がない。それでリュートをはじめとする、完治した村人が無理をして身体を壊してしまっては救った意味がない。


 甘いかもしれないが、ここが妥当なところだろう。


「それでいいとおっしゃるのであれば、私共は大変助かりますか……」


 村長とリュートが「本当にいいの?」とでも言うような視線を向けてくる。


 教会ってそんなにもお金をもらうような組織だったのだろうか。二十年前よりがめついイメージを持たれている気がする。


「いいよね、ルーちゃん?」


「まあ、我々は正規の手続きを経てやってきたわけではないですしね。聖女見習いということを考えれば妥当なところでしょう」


 私が視線を送りながら尋ねると、ルーちゃんは少し呆れながら許してくれた。


 どうやら教会のルールとしても妥当なラインであるようだ。


「ということで、今晩の宿と物資の融通をお願いいたします」


「ありがとうございます!」


「そういうことであれば喜んで。私たちで精一杯おもてなしさせて頂きます」


 私がそのように言うと、リュートと村長は感激した様子で頭を深く下げた。




 その日は村長の広い家でゆっくりと休むことができ、クルトン村の料理を堪能した。






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