閣下!決着です!~バンジー市街戦②~

 え? 終わった? 敵はもう要塞に達したのか? 通りすがりに見かけた敵はことごとく打ち破ったはずなのに……。


 絶望しながらも、しかし戦わなければならない。ダカラナニはそばに転がっていた火炎瓶を拾い上げ、迫りくる騎馬隊に投げつけた。いくつか投げたうちの一つが一騎に当たった。一騎はよろめいて倒れ、隣の馬にぶつかった。隊列が乱れていく。すかさずそこに近づき、すかさず毒針を刺していく。馬は大暴れし、コントロールを失った騎手たちは地面にたたきつけられる。それを見逃さずとどめを刺そうとするが、敵の後方からも火炎瓶が投げつけられ、難航する。


 しばらく格闘を続け、体力も厳しいものとなってきた。頭の中では考えたくもない二文字が浮かぶ。

 このままではまずい……。誰か来てくれ――。


 その時はすぐに来た。町の入り口に近い敵の騎馬が急発進してきた。

 その後ろには――。

「陛下!」

 クロスボウを乱射しながらも馬を操る皇帝、馬の上で麻の袋から大量の石を騎手の顔面に投げつけていくンカラプッテの姿である。援軍だ。援軍が来たのだ。

 なんと町の外から。

「よぉぉし!なんだかよくわからねえがやってやるぜ!」

 ダカラナニ、最後の力を振り絞って、逃げていく相手を追いかける。その向こうには――。

「ソーダロガ!」

 かつては喧嘩ばかりであった二人による挟み撃ち。パワーと戦略、二つの力が合わさり、今、一つになる――。



 大勝利であった。

 真夜中に始まった戦いは朝まで続き、朝陽が荒廃した町を照らした。

 だがンカラプッテ自慢の避難訓練のおかげで民間人はみな無事だった。


「いやーそれにしてもよー」包帯を修道女に巻いてもらいながらダカラナニが疑問を提出する。ここは指令室となっていたあの要塞の薄暗い訓練所。今は看護をする場所となっている。兵士たちが傷の痛さにうめきながら包帯を巻いてもらっている様子が見える。

「要塞の屋根がぶっ飛んで、陛下とンカラプッテが町の外から入って来たのが未だにわけわかんねえんだよ」

「なあに。簡単だろ。誰かの火縄銃の弾が屋根のなんかに引火してほら……バン!だよ」ソーダロガが身振り手振りで得意げに答えるが、

「屋根に火薬なんて詰め込んでるか? 万が一詰め込んでいても石造りの屋根を貫通して、その中の火薬にヒットさせるなんてそんなミラクルあるのかよ?要塞まで遠いし、髙いし――」なんぞ大反論を受けてしまい、喧嘩する気力もなく、しょげてしまった。

「オ教エイタシマショウカ?」肩に包帯をぐるぐる巻いているンカラプッテの登場だ。

「爆破ハワザト行ッタンデスヨー。ワザト」

「わざと? どういうことなんだ?」

「要塞ノ屋根ガ吹キ飛ンダラミンナ驚クデショウ。ソレデス」

「それだけか?」

「ソウデス。ミンナガ驚イテイル隙ニ町ノ外カラ追イ立テマス、スルトミンナサラニパニックニナリマス。大逆転劇の完成デス」ンカラプッテは歯を見せた。とっても白い美しい歯だ。

「じゃあなんで町の外から入れたんだ?」

「忘レテタンデスケド、必死ニ考エ続ケテイル陛下ノクルクル頭をヲ見テ思イ出シタンデス、抜ケ道」

 どうやら町の外に出れる地下通路の存在を総督自身が忘れていたようだ。

「まあ……」ダカラナニはあきれかえった。

「なんとかなったからいいか……」


 服に滴る汗を拭わせ、荒廃したバンジーの町の復興作業が始まった。

 大量の遺体を埋葬し、オアシスの水で路上に染み付いた血を洗い流し、略奪によって荒らされた店の後片付けがなされた。

 兵士たちは乱れた治安を維持するため、交代制で町を巡回した。


 そして同時に兵士たちは次なる戦いへの準備を始めていた。

 ミルタルコス領タルコスでの戦いのため、皇帝軍は南へ進軍を開始

 したのである。

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