第27話「決闘」

 レナは、ウィルの上に覆いかぶさる様になりながら、7発の銃声を耳にしていた。


 それから、床の上に、6人の人間が倒れる音と、床からの振動が伝わってくる。


 レナは咄嗟(とっさ)に閉じていた両目を開け、急いで周囲を確認した。

 そこには、すでに絶命した5人の宙賊が倒れていた。

 1人はまだ息があり、心臓に近い辺りを両手で押さえながら悶絶していたが、すぐに動かなくなっていった。


 おそらく、今から手当てをしても間に合わないだろう。

 レナに下品な視線を向けていた宙賊の、おそらくはかなり苦しかったであろう死にざまを見て、レナは少しだけ彼に同情した。


 そして、見上げると、そこには硝煙をなびかせながら、アウスが立っていた。


 レナが、自身の胸の下あたりで、何かがもぞもぞと動くのを感じ取ったのはその時だった。

 レナが見下ろすと、そこには、苦しそうにもがいているウィルの姿があった。


「あっ、ご、ごめん、ウィルくん! 」


 レナは微かに頬を赤らめながら慌ててウィルの上からよけて立ち上がった。


「べ、別に。……ま、守ってくれて、ありがとう」


 それからウィルも、若干顔を赤くしながら立ち上がった。


「よぉ、2人とも、無事か? 」


 そんな2人をニヤニヤしながら見下ろしていたアウスは、銃に弾丸を再装填しながらそう言って、ゆっくりと階段を下りてくる。


「え、ええ! おかげさまで、こちらは怪我もなく」


 どうやら降下してきた全ての宙賊を撃退できたらしいと分かって、安心したレナはアウスに笑顔を向け、感謝の言葉を述べる。


 だが、アウスは、そのレナの言葉を最後までまともに聞くことができなかった。

 階段を下りていた足が唐突にもつれ、アウスは階段を転がり落ちてしまった。


「じーちゃんっ! 」

「アウスさんっ! 」


 ウィルとレナは階段の下でうずくまったアウスに慌てて駆け寄り、そこで、アウスの身体から血が流れ出ていることに気がついた。


 銃声は、7発だった。

 そして、アウスの拳銃は、6連発のリボルバータイプだ。


「へっ、へへへ、やっぱり、年のせいで鈍っちまったんだなぁ。1人、即死させられなかったせいで、こっちも1発、食らっちまったみてぇだ」


 そう掠(かす)れた声で絞り出す様に言ったアウスの胸からは血が流れ出続け、傷口の中でバチバチと火花が散っている。


「人工心臓を、やられちまったらしい。こりゃぁ、助からねぇ、だろうな……。何せ、古いし、調子、悪いしな……」

「そんなことありません! 今、救助を呼びます! 」


 気弱な笑みを見せるアウスにレナはそう叫び、腕時計型の携帯情報端末を使用して、サンセットの医療機関に通報を行った。


 その間、ウィルは自身の服を脱ぎ捨て、アウスの止血をしようと必死になっている。


「じーちゃん! じーちゃん、しっかり! 」


 その瞳には、涙が浮かび、ウィルはそう叫びながら、アウスの傷口を抑え、少しでも出血を留めようとしていた。


 そんなウィルを、アウスは自身の生身の身体である右手で優しくなでる。


「そんな顔、すんなよ、ボウズ。……これは、因果応報っていうもんさ。俺は、散々、悪いことをしてきたからな。……ついでに、お前にも、ずっと、ウソを吐いてきた」

「知ってるよ、そんなこと! 」


 ウィルはそう叫ぶと、言葉に詰まり、嗚咽(おえつ)をもらす。

 ウィルの頬を伝って流れ落ちた涙が、アウスの服の上に落ちて染みを作った。


「……それなら、話が早ぇ」


 そんなウィルに、アウスは掠(かす)れた声で言う。


「なぁ、ウィル。ロクデナシの俺だが、最後に、頼みを聞いちゃくれないか? 」

「嫌だ! 」


 ウィルは、即答する。


「これで最後何て、そんなことない! だから、嫌だ! 」

「へっ、普段の素直さがウソみてぇじゃねぇか」


 そんなウィルに、アウスは微笑みかける。


「けどな、分かるんだ。どんどん、俺が死んでいくのが。体の感覚がなくなっていくのが。……だがな、俺のやって来たことと考えれば、俺が死んでも、俺の魂はどこにも行けねぇ。俺は、償(つぐな)いきれねぇ罪を背負ってる、が、できれば、それを少しでも軽くしてぇ」


 アウスはそこで言葉を区切り、絞り出すように言う。


「だから、よ、ウィル。最後に、俺と、勝負、してくれや」

「勝負!? 勝負って、なんの!? 」

「決闘、だよ、ボウズ」


 アウスはそう言うと、ウィルにしか聞こえない声で何かを呟いた。


 レナには、アウスが何を言ったのか、聞き取ることができなかった。

 だが、その言葉を、アウスの口元に耳を寄せて聞いた瞬間、ウィルの身体の震えも、流れ落ちていた涙も止まった。


 それから、ウィルは、何かを決意したかの様な顔で、ふらりと、立ち上がった。

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