第24話「戦いは終わっていない」

 サンセットの荒野に、撃破された宙賊の12機のMFがその亡骸をさらしている。

 ある機体はバラバラになり、別の機体は炎上し、幾筋もの煙がサンセットの赤い空に向かって立ち上っている。


 岩場から出ることができたレナとウィルは、そこで、毒蛇(ヴィーペラ)団の3機と対峙することとなった。


「あなたたち。まずは、助けてくれたことにお礼を言わせてもらうわ。ありがとう。おかげで助かったわ」


 レナは、警戒を解かないまま毒蛇(ヴィーペラ)団へとそう言った。

 彼らがどんな意図でここまで戻って来たのか、まだ分からないからだ。


≪ま、姉ちゃん、貸しひとつってところだな≫


 毒蛇(ヴィーペラ)団のリーダー、アヴィドはそう返答しながら、自身の機体の銃口を地面へと向けさせた。

 敵対する意図はない、ということの様だった。


「借りはきちんと返すわ。約束します。……けれど、どうして、戻ってきてくれたの? 」

≪へっへっへ、そりゃ、姉ちゃん、敵が「10機以下」になったからな≫


 下品な笑い声と共にレナの質問に答えたのは、プシャルドだ。


≪うちのアニキが言っただろう? 10機やそこらなら相手してやる、ってな! なぁに、俺たちも野暮じゃねぇ、姉さんにあんまり無理なことは言わねぇから、安心しな! ≫

≪んだな。第一、俺ら、宙賊が軌道上を占拠しちまったもんだから、出るに出られなくなっただけだしな≫


 プシャルドに続いて発言したトントのその言葉で、一行の間には沈黙が降りる。


≪どうしたんだな、みんな? ≫

≪アホカ! だまっときゃいいのに、馬鹿正直にぺらぺらと! 俺たちの格好がつかねぇじゃねぇか! ≫


 不思議そうなトントの機体に、プシャルドは自身の機体の拳をぶつけた。


≪ったく。まぁ、そういうわけだ。こっちも戦わなきゃいられなくなっちまったのさ。宙賊団の動きが思ったよりも早くてな。そういうわけで、姉ちゃん。お代は大まけにまけておくぜ≫

「あら、ありがとう」


 レナは、勝てないと思っていた戦いを生き残った喜びもあって笑いを必死にこらえながら、何とかアヴィドにそう答えていた。


≪しかし、姉ちゃんよ、まだ上には宙賊の揚陸艦が居座ってる。姉さんの宇宙船が頑張ってるみたいだが、ちと形勢が不利みたいだ。俺たちで援護してやろうか? ≫


 それからレナは、アヴィドのその言葉でまだ戦いが終わっていないのだということを思い出した。


 上空を見上げると、そこでは、艦船運用支援AIのデアによって操縦されたベルーガが、1隻で宙賊の揚陸艦を牽制(けんせい)するために攻撃を仕掛けていた。

 大人と、幼い子供ほども大きさに差がある戦いだった。


 ベルーガは運動性を最大限に発揮しながら、たった2門しかない中性子ビーム砲で宙賊の揚陸艦を攻撃していたが、揚陸艦の装甲は厚く、十分なダメージを与えることができていない様だった。

 戦いが何とか成立しているのは、宙賊の揚陸艦には十分な武装がなく、あまり反撃を受けていないおかげだった。


≪なぁに、安心しな。乗りかかった舟だ、こっちはサービスしとくぜ。宙賊と戦って惑星ひとつ守ったとなれば俺たちの名もあがるし、当局から謝礼もたっぷりもらえるしな≫

「まったく。「俺たちは降りる」何て言っていたくせに、調子のいい人。……いいわ、お願い。あの子が無くなっちゃうと、私も旅を続けられないもの。農場の方にも20人ばかり向かって行ったけど、こっちはMFがあるだけでも対処できるわ。あのデカブツは、お願いね? 」

≪おう、任されたぜ≫


 アヴィドはそう言うと、子分たちに「行くぜ、野郎ども! 」と叫び、宙賊の揚陸艦へと向かって行った。


≪お姉さん、早く、農場に行こう! ≫

「分かってる。アウスさんを助けに行きましょう! 」


 毒蛇(ヴィーペラ)団の3機が赤い空に飛びあがっていくのを見届けた後、レナはウィルからの呼びかけに答え、アウスがいるはずの農場へと向かった。


 砂塵を巻き上げながら、2機のMFは疾走する。

 岩場から農場まではMFからすればわずかな距離しかなく、農場までは1分とかからずにたどり着くことができた。


「宙賊は!? アウスさんは、どこ!? 」


 レナは農場を見回しながら、思わずそう口走っていた。


 農場には、宙賊たちの4台のエアカーがすでに到着していた。

 だが、宙賊たちの姿が見えない。

 すでに農場の中に入り込み、散らばっている様だった。


 そして、銃声が辺りに響く。

 どうやら、宙賊たちとアウスが、銃撃戦を行っている様だった。


≪お姉さん、奴らに入り込まれてる! MFで戦ったらじーちゃんまで危ない、僕は降りて戦う! ≫


 その様子を見たウィルはレナにそう言うと、レナが何かを言う間に機体のコックピットハッチを開き、リボルバータイプの拳銃を片手に飛び出して行ってしまった。


「あっ、ちょっと、ウィルくんっ!? 」


 レナはウィルの無鉄砲さに驚き、それから呆れて、自身をミーティアのコックピットの操縦席に固定しているベルトを取り外した。


 レナもまた、拳銃を引き抜き、構えながらコックピットハッチを開いて、ウィルの農場へと降り立つ。

 一度助けると決めた以上、レナは最後まで、この事件がどうなっていくかを見届けたかった。

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