天才冒険者は弱体化中 元凶のモンスター少女と共に栄光への道を歩ませられる

渡り鳥

プロローグ


「しっかし、コルバーチのエース候補が移籍するっていうのに迎えの馬車もないとはねえ」


 少年はそう言って森をけだるげに歩く。

 この森は街を出てすぐにある、うっそうとした原生林である。中は暗く、モンスターも出る。そこまで強い個体はいないが、大人の男でも一度中に入って生きて帰ることはできない。

 そんな中に少年が一人。それも髪を短く刈っていなければ女だと思われかねない綺麗な顔で、身長も百七十程度と男としては高くない。何とも危うげだが、


「はっ、見つけた、モンスター。引っ越し前の景気づけだ。この一帯、狩り尽くしてやる」


 少年の顔がその美貌に似つかわしくない凶悪な笑みに歪められ、これまた顔に似つかわしくない言葉を吐く。

 少年は駆け出す。スピードを落とさず、木々の間を縫いながら定めた目標に向かって。その様は美しい少年などではない。獣、野獣である。

 よく見ると少年は相当筋肉が発達している。普通の生活では決してつかない筋肉だ。ただしアスリートのそれとも異なる。近いのは軍人、農業従事者といったところだ。


「はっ、まずは一匹目!」


 少年の目標はモンスター。気づかれるよりも速く飛びかかり、手刀で仕留めた。

 モンスターの大きさは二メートルほど。それを素手であっさり倒した。


「何だよ、手応えねえな。まあコルバーチのエース候補相手じゃあしょうがないか」


 少年――ウィリアム・オーウェンは冒険者だ。ギルドに所属してモンスターを狩り、未開の地を探索する人類の強者である。

 彼は先日、高い年俸を求めて弱小ギルドから巨大ギルドにFA移籍しており、今は移籍に伴う引っ越しの道中なのだ。


「おっと、どんどん逃げられてるな。まあモンスターたちも三年見ていれば俺が怖いって学習するか」


 現在十八歳、普通なら中等教育を修了して一年目だ。中等教育を終えてようやく冒険者になれる。

 しかし彼はより早く冒険者になるために勉学に集中して飛び級を重ね、三年早く修了。天性の身体能力と魔力量、魔法のセンスを以てその三年でFA権を取得した。

 史上最短、最年少だった。勉学においては秀才、冒険者としては天才と誰もが疑わない。


――栄光は強さによってのみ得られる。俺は強い。だから栄光は俺のためにある。


 しかし自己中心的で自信過剰、金銭欲に忠実と、かなり性格に難があり、FA宣言で彼の地元は荒れた。それでも自他共に認める天才冒険者である彼は、自身の栄光を信じて疑わない。


「もし、旅のお方。私を運んではいただけませんか?」


 そんな彼の栄光の道は、この森で出会ったある少女の一言から大きく曲げられることになる。

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