第19話 診断結果

「どうだった?」

 彼が病院から帰ってきた。今日は私はバイトがあり一緒に病院に行けなかった。検査結果を聞きに行くだけだからと、彼も一人で行くと言い、一人病院に行っていた。

「ガン」

「えっ」

 私は思わず笑ってしまった。彼お得意の冗談だと思った。

「・・・」

 しかし、彼は黙っている。

「・・・」

 私は彼を見つめる。

「ガンだってさ。しかも、かなり厄介なやつらしい」

「うそでしょ・・」

「・・・」

 しかし、彼は黙っている。

「・・・」

 私は彼の表情が変わって、嘘だよ~んと言うのを待った。

「うそでしょ?」

 でも、それは起こらなかった。

「・・・」

 彼はうつむき黙っている。私の頭は真っ白になり、胸の中にむくむくと、真っ黒い不安が湧き上がってくる。

「冗談でしょ」

 やはり、彼の表情は変わらない。

「でも、治療すれば」

 彼はゆっくりと首を横に振った。

「ダメなんだ」

「でも、なんかあるわよ。調べれば」

「・・・」

 彼は黙っている。

「でも、まだ、すぐに死ぬってわけじゃないんでしょ。その間に色々できることはあるわ」

「・・・」

「絶対なんかあるはずよ。絶対・・」

「三か月・・」

「えっ」

「余命は三ヶ月。もう相当、進んでしまっているらしい」

「・・・」

 私は絶句した。何が今目の前で起こっているのか、よく分からなかった。いや、分かっていたけど、分かることができなかった。

「でも・・」

 私は何か言いたかったが、何も出てこなかった。何かこの事実を否定したい、その思いだけが私の中で空回りしていた。

「進行がとても速い奴らしい」

「・・・」

「あと三ヶ月だよ・・」

 彼は力なく大きく息を吐きながら言った。

「・・・」

 あまりに突然で、現実感がなかった。でも、これは現実なのだと、目の前の彼の絶望した顔が私にそれを突き付けていた。

「でも・・」

 でも、私はそれでもその現実に抵抗を試みた。

「ただ死ぬだけならいいんだが・・」

 そこに彼がさらにぼそりと言った。

「何?」

「このガンはかなり厄介な奴らしい」

「どういうこと」

「かなり痛みが出る。全身の骨に転移して、それで全身が猛烈に痛むらしい。話を聞いた限りでも、相当凄まじいらしい」

「・・・」

「帰りに少し図書館で調べたんだけど、痛みのあまり、叫び過ぎて顎が外れた人もいたらしい・・」

「でも・・、何か・・、治る方法が・・」

 私はそう呟くだけで精いっぱいだった。

「ダメなんだよ。もう、手遅れなんだ」

「・・・」

 この状況になっても、まだ私は彼が嘘だよ~んと言うのを、頭の片隅で期待していた。でも、それは起こらないと、また別の片隅ではそんな恐怖がモワモワと浮遊していた。

「僕は怖い・・」

 彼は力なく呟いた。

「・・・」

「僕は怖いんだ」

「・・・」

「正直怖い」

「・・・」

 彼のその言葉と、表情が、私が頭の片隅に持っていたわずかな期待も打ち砕いた。

「・・・」

 私にはかける言葉もなかった。そして、自分にかける言葉もなかった。どう誤魔化しても、どう否定しても、これは今、私の厳然たる目の前に突き付けられた、逃れようのない現実だった。

 私はどうしていいのかも分からず、その場にただ茫然と立ち尽くした。

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