第7話 星空の下で

「ふ~っ、おいしかったね」

「うん、おいしかった」

 私たちは、膨れたお腹をさすった。

「お茶淹れるね」

「うん」

 私は急須にお湯を入れた。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 満ち足りた食後のなんとも平和な時間が流れた。

 ドーン

「わっ」

 その時、突然そんな平和な時間を切り裂くように、ものすごい轟音が、地響きのように部屋を揺らした。それは腹の底に響く音だった。

「な、なんだ」

 私は慌てた。戦争でも始まったような音だった。

「おっ、始まったな」

 しかし、彼は落ち着いている。

「な、何が始まったの」

 私はおっかなびっくり彼に訊いた。

「外を見てごらんよ」

 私は振り返って、後ろの開け放たれた窓の外を見た。その時、またドーンというあの地鳴りのような音が部屋いっぱいに響いた。

「あっ」

 その時、夜空に大輪の花火がパッと広がった。

「なんで?」

 私は彼を見た。

「試験打ち上げだよ。花火大会の練習さ」

「あ、なるほど」

 花火大会はもう来週に迫っていた。私たちは、窓辺に二人座って花火を見上げた。

「きれいだね」

「うん」

「なんか得した気分」

「うん」

「ほんとにきれいだね」

 別世界のようにゆったりと特等席を独占している気分だった。

「あっ」

「どうしたの」

 彼が私を見た。

「スイカ買ってくればよかった」

「えっ?」

 彼はなんのことか分からずキョトンと私を見つめる。

「夏といえば、花火、花火といえばスイカだわ」

 私は悔しさに唇を噛んだ。

「花火?スイカ?」

 彼はそのつながりがよく分からないらしかった。

「花火といえばスイカだよ」

「???」

 しかし、彼にはやはり分からないらしかった。

 花火は小一時間程で終わった。河川敷に集まった人々も帰り、また静かな河川敷が広がっていた。なんか急に寂しくなってしまった。

「ほらっ」

 彼が、その時、夜空を指さした。

「えっ?わあ」

 見上げると、満天の星空が広がっていた。派手な花火もいいが、小さく瞬く星の群れはもっと素敵だった。私たちはしばらく黙ってその星空を眺めた。そして、自然とお互いを見つめ合った。

 私たちは満天の星の下でキスをした。この恋の始まりに、私はぞくぞくした。幸せなのだと、自分は幸せなのだと、まだ追いついていない実感を確かめるように、私は自分で自分に言い聞かせた。

「なんで笑うの」

 目を開けると、彼は笑っていた。

「幸せなんだ」

 彼は幸せそうに言った。

「ふふふっ」

 私も笑ってしまった。

 そして、私たちはもう一度キスをした。なんだかこの恋は今までにない、熱い何かがありそうな予感がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る