第9話 城下町 - 1 -

 今日はここまでにしましょう、というカイの一言で締め括られた。私たちは、それぞれがそれぞれに想いを抱きながら、無言のまま部屋を出た。


 予言の表れず、未来も過去すらも明らかにしなかった予言書


 カヴァリヤ王として自らの資格を疑ったフェリックス

 自分の存在が不明なままのサラ


 何も分からないまま、不穏な動きをするエクレールとシレンシオ


 エクレールに行こうというサラの言葉は、あの部屋でどのように響いたのだろうか。


「シアラ、待たせた」


 私は城と城下町を分つ川に架かる橋の欄干に座り、フェルデナントを待っていた。

 部屋から出て解散してから、気分転換にとカイがサラに城の案内を申し出た。その案内役にフェリックスが名乗りをあげ、カイの城内観光からフェリックスとサラの2人きりのデートにあっと言う間に仕立て上げられた。

 そうして手持ち無沙汰になった私に、フェルデナントが城下町の案内を申し出てくれた。城下に行くならと、彼に着替えてくるから待つようにと言われた。女でもないのに、と私は茶色のウィッグを被ってさっさと待ち合わせ場所に向かった。


「着替える必要なんてあった?」

「あぁ、悪い。一応、これでも顔は知られているんだ。救世主のこともあるし、面倒は避けたい」

 フェルデナントはそう言って、着替えてきた町民の服の上に羽織ったローブのフードを目深に被った。

「……ふーん」

 確かに、救世主が現れるであろう今のタイミングで国王に近しい部隊隊長が街に降りてきているとなれば、詮索はしたくなるだろう。


「街は、この橋を渡って螺旋状に広がっている。商人街には農作物や肉、魚、鉱山で掘削した鉱物で作った武器や防具、もちろん普通の服も売っている。そこに向かおう。カヴァリヤのことが分かる」

 フェルデナントは嬉しそうだった。顔はフードで半分隠れていたけれど、見上げた先の口元から、微笑んでいるのが伺えた。やはり自分の生まれ育った街を紹介できると言うのは楽しいものなのだろうか。ましてや、こんなに大きく美しい街なのだから尚更だろう。

「カヴァリヤは、食糧も鉱物もなんでもあるのね」

「そうだな。海がないから川魚しかないことくらいで、資源には恵まれている。それにカヴァリヤ国民はあるものに感謝して生活することを大事にしているから、土地の資源がより豊かになっていくんだ」

 フェルデナントに知り合って間もないが、こんなに話すタイプだとは思わなかった。本当にカヴァリヤのことを愛しているのだろう。


 街に入るとすぐにフェルデナントの言葉が現実になった。

 色とりどりの野菜や果物、鮮やかに染めれた生地に初めて見る料理までが店頭に並び、多くの客で賑わっていた。

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