第13話 三国同盟 - 3-


「クラウス陛下が……うたれました……!!!!」


 兵士が一人、倒れ込むようにカヴァリヤ城の王の間に入ってきた。

 足を引きずり、左腕は関節が外れてだらんと下がったままだ。

 玉座は空いている。

 兵士はその重厚な椅子の隣に立つ男に向かって言った。その男は、騒がしい城内と外の熱気を運んできた兵士とは正反対に、ひやりとした印象を与える。


「ご苦労でした」

 治療を、とカイは続けた。


 エクレール領土内、城を出たすぐにクラウス国王の一軍が襲撃された。大きな音と煙が立ち上り、火薬の匂いが立ち込めたという。


 クラウス国王がエクレールとの協議のためカヴァリヤを離れ、帰国を控えた前日の出来事だった。


   *


 音が溢れ、花が溢れ、そして晴れ渡った日だった。クラウスの葬儀は、歌詠の悲しく透った声に包まれた。葬列者は、足を失った者、喉を焼かれ歌を詠めなくなった者、親を失い子供同士手を繋ぐもの、皆が何かを喪していた。

 歌は古い言葉で、彼らを慰め愛しむ。


 クラウス国王死後、日を置くことなくシレンシオの国王が自死した。シレンシオは撤退し、戦争は誰も予想をしない形で終結となった。


 三国の端に位置するカヴァリヤは大規模な戦禍は免れたが、狂ったような布陣で攻め入るシレンシオとの交戦と、エクレールから流出した新しい武器を持つ山賊や海賊の制圧で体力を消耗した。

 優勢を保ち続け、余力のあったエクレールは、国同士の戦いの裏で繰り広げられていた地域の紛争や、争いに便乗した略奪行為を力で押さえることで戦後をつくった。

 

「フェルド……」


 フェリックスは正装をし、喪に服していることを意味する灰色のローブを纏っている。城内にある聖堂の最前列で真っ直ぐと、今は亡き父親が眠る棺を見つめている。


「なんで……救世主様は現れなかったの」


 カヴァリヤに代々伝わる予言書には、カヴァリヤが苦難に陥った時に救世主が現れ平和をもたらすと記され、そう信じられている。


 フェリックスの問いかけは、救世主が現れなかったことを恨むでも悲しむでもなく、真実を知りたいという純粋なものだった。声は明瞭で、歌詠の音楽の中でも拾えることができた。


「フェリックス……、俺にはわからない」


 フェルデナントはそう答えるしかなかった。

 戦場に出ないまでも、帰還する兵士たちの負傷した姿、焼けた皮膚の匂い、終わりのない戦いを見てきた彼にとって、救世主が一体何者なのか御伽噺のような存在を想像することができなかった。


 戦地から戻った兵士が話聞かせてくれた、エクレールの新しい武器のことを思い出した。それは火薬を使うという。火薬もエクレールが発明したもので、すでに爆破装置に使われているが、大量に必要とされるため戦場での使用は困難とされていた。

 エクレールは筒状のものにその火薬を詰め込んで、中の鉛玉を勢いよく発射される装置を開発したという。

 夢のようなこの葬儀より、クラウス王を討った武器の事を考える方が、フェルデナントには現実的だった。それくらい彼にとっても、父親のようであったクラウス王の死は受け入れ難いものだった。

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