24話 救世"具"


タケシたちの後ろには、白銀の翼を広げ、いつもとは異なり、実体化した女神の姿があった。



ーーー女神様!!


《メガミン!》


「おぉ…親愛なるスタディ様…」


「あなた方の活躍…見させていただきました。私の管理する世界を守っていただいたこと、まずは感謝を申し上げます。」


ーーーいいよ。自分たちで決めてやったことだし。


「相変わらずチートな力ですね…あなたは。前の竜王の時は、私でもどうすることもできず、別世界から無理やり勇者を召喚して倒させたのに…」


ーーーそんなこともできるんだ!


「異世界召喚はよく行われます。魔王などの脅威が現れた時などにですが…それは置いておくとして、本題ですが…」


ーーー極大魔法グラビティの行使を手伝ってくれるんでしょ?


「はい…それと…」


《それ以外にも、まだあるの?》


「黒井さん…あなたの魔力を使って死んだ者たちを甦らせることが可能です。」


「なっ…なんと!」


《すっ…すごいじゃん!!》


「私が黒井さんの魔力を借りて、蘇生魔法を行使します。しかし、極大魔法の行使を並行して行うことは私にでもできません…なので、魔力の配分は私で行いつつ、グラビティのコントロールはリーナ…あなたに任せます。」


《…それは構わないけど…でもメガミン…本当にいいの?》


「…あなたの心配はわかっております。本当は私がこの世界の命に、直接関わることは世界管理の観点からはご法度です。しかし、黒井さんの功績を考え、私の判断でお手伝いさせていただきます。」


ーーーそれって…もしかして、あの主神には内緒でってこと?


「…まぁ、すぐにバレてしまうでしょう。ただ、あなたへの借りは返しておこうと思いまして…というか、私が何もせずとも、あなたはその結論に自らで達したのでしょうね。」


ーーーうん…確かに女神様から蘇生魔法って言葉を聞いて、やっぱりあるんだなって思った。俺はみんなを助けたいんだ。それができるならなんだってするつもりだから…


「あなたの覚悟を私も背負います。先ほどリーナが言った通り、おそらくかなりの確率であなたの魔臓器は壊れるでしょうから…本当に申し訳なく思っています。私のミスで…」


ーーーそれはもう言わないでください!結構楽しかったんで、俺は気にしてないですから…それに黒板消しに転生しなかったら、こんなチートな能力も持てなかったし、竜王も倒せてない。むしろ…今ごろ瓦礫の下かもしれないでしょ?


《タケシ…ぐすん》


ーーー泣くなよリーナ!というか、俺が消えたらお前も消えちゃうんだぜ?こっちこそ申し訳ないよ。


《…ヘヘヘ、タケシはまだわかってないな…僕のこと。そうなってもタケシからは絶対離れないもんね!!》


ーーー本当にそうなんだろうな…ある意味でリーナが一番…


「二人とも、そろそろいいですか?わたしもあまり長くはおれませんので…始めましょう。」


ーーーオッケー!もう一回だけ、世界を救ったろうじゃん!!


《だね!》


「…タケシ…リーナちゃん…」


ーーー学園長先生!ワイドたちを頼むよ!同じ教育者としての志…先生に預けるよ!


「…うむ、確かに受け取った!!」


ーーーじゃあ、女神様!よろしく頼むよ!


「わかりました…それでは…」



女神はそう言って目を閉じる。

そして、両手を広げて詠唱を始めると、タケシの体は白い輝きに包み込まれた。



(バイバイ!みんな!)



タケシがそう心でつぶやくと、その輝きが大きさを増していく。


少しずつ…少しずつ大きく膨らんでいく光玉は、女神の詠唱に合わせてゆっくりと空へと浮かび上がっていく。


そして、それと合わせるように街中の瓦礫が浮かび上がり始めた。




街の中心で必死に瓦礫をどけ、人命救助にあたっていた国王軍の兵士たちは、目の前で浮かび上がる瓦礫に驚きの声を上げる。


親が下敷きになって泣いていた子供は、その様子に驚きながらも、生きていた親を見て泣いて喜んだ。


生き埋めになっていた多くの人たちが、瓦礫の下から姿を現し始め、助かった人々は抱き合い、その生を確かめ合う。


しかし、それ以上に多くの人たちが、未だに死という悲しみから逃れることができていない。


なぜならば、瓦礫の下で命を落とした多くの人たちも、姿を現し始めたからだ。


しかし、ヒューマニア全土が死と悲しみに包まれていく中で、それは起こった。


ブラックボート学園があった場所で、一つの小さな光が煌めいたかと思うと、一筋の光が空へと舞い上がったのだ。


そしてそれは、幾筋にも分かれ始めると、まるで細い流れ星のような光となり、ヒューマニアの国中に降り注いでいく。


それら無数の光が、それぞれたどり着いた場所は、命を落とした人々の体であった。


光を受けた者は、ゆっくりと息を吹き返し、目を開けていった。


国中に奇跡の歓喜が広がっていく。



「…これは…なんと美しいのじゃ…」



学園の校庭で一人、空へと広がる無数の光を見上げながら、感嘆の表情を浮かべるライブラリは、静かに呟いた。


タケシとリーナは、ヒューマニアを本当の意味で救ったのであった。





「…まさか竜器を手にした奴を子供扱いとは…な」



タケシたちが人々を救わんと極大魔法を行使している中、小高い樹の枝に立ち、飛び交う光を見上げながら、その様子を伺う者がいる。


黒装束を纏い、フードを深々と被っており、その表情はわからないが、女神たちのことを観察するように注視するその双眸は、美しい真紅に染まっている。



「…少し計画の変更が必要だな。彼も一度眠りにつくだろう。いったん戻って奴らと相談せねばならんな。」



彼はそういうと、ニヤリと口元で笑みを浮かべて、その場を後にした。





「それで…?彼…黒板消しくんは、どうなったんだい?」


「膨大な魔力を行使し、魔臓器は破損してしまったため、器である黒板消しが消滅してしまいました。ですので、彼の魂は現在、凍結しております。」


「そうかい…死んではないんだね?」


「その一歩手前…と言ったところでしょうか。」


「うん!わかった…ありがとうサーチちゃん。」



主神は、横に立つ金髪ショートボブの女性にお礼を言うと、女神ことスタディへと視線を向ける。



「勝手なことしてくれたよねぇ〜ご法度に触れてるなんてさ…」


「…申し訳ございません。いかなる処罰も甘んじて受け入れます。」


「ふ〜ん…スタディちゃん、なんか表情がスッキリしてるよね。それも彼の影響かな?」


「……。」


「まぁいいけどさ…しかし、勇者でしか倒せない竜王を簡単に倒しちゃうなんて…やっぱり彼は面白いよね…フフフ」


「いくら付喪神の能力を譲渡されたとはいえ…あの魔臓器のスペックは異常です。しかしながら、今となっては彼の魂は凍結してしまったので、詳しく調べることもできませんが…」


「サーチちゃんでもそう思う?まぁその辺は心配してないんだけどね。本当は元の世界に戻してあげたいんだけど、制約でそれも無理だし…」


「当面は、黒井タケシの魂について経過観察を行います。」


「そうだね…よろしく頼むよ、サーチちゃん。」


(それに彼が目覚めたら面白いじゃん…僕の予想だとおそらくまた目を覚ましてくれると思うんだよねぇ…フフ)


「…あの主神さま?」


「ん…?スタディちゃん、どうかした?」


「私の処罰についてですが…」


「あぁ〜!そうだったね!しかしまぁ…君にはまだやってもらいたいことがあるからね…処罰は保留にするよ!」


「なっ…しかしそれでは!」


「例の神具の件をちゃんと調べること。とりあえずそれを君に対する罰にしておこうかな…いいかなスタディちゃん?ツクモっちにも言っておいたから、協力してくれると思うよ!」


「わっ…わかりました。善処いたします。」



そう言って女神は主神の御前を後にした。主神の横に立っていたサーチも、かけていたメガネを右手で整え直すと、部屋を後にする。



(どうもきな臭いよね〜嫌な感じだよなぁ…)



残った主神は、一人考えながら笑みを浮かべるのであった。

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