第16話 遠足2

「向こう側の側が丸壁ということは、こっちが太陽の壁かな」

そういうとエレナが振り返ると、3人も一緒に壁を見上げる。


子供たちが住む街では、太陽の壁にある太陽は丸い壁の中心部にあって円形をしているが、ここの太陽はリング状になっている。このリングが囲むのは小さな円筒で、壁からプールに向かって突き出ている。そして、この円筒形に登れるようにらせん階段が続いている。

「あの小さな円筒は何?」

カルラがアグナスさんに質問する。


「あれは無重力を楽しむところで、プールへの飛び込み台にもなってるんだよ」

アグナスさんがこたえる。

「無重力?」

「あんな高いところから飛び込むの?」


「高いけど、ここは低重力だから怖くないよ。それに丸壁まで飛んでいくこともできるんだよ」

「えー」

みんな丸壁の方を見る。50メートル先なのでものすごく遠く見える。


「向こうの丸壁はぶつかっても痛くないように柔らかくなってるんだ」

「へー」

「ベッドみたいな感じかな」

「さわってみたい」

4人はあらためて50メートル先の丸壁を眺める。


「まあ、実際丸壁まで飛ぶのは難しいんだけどね。手前でプールに飛び込むことになる」

アグナスさんが水しぶきが広がるように腕を広げる

「後でみんなで登るから、それまで楽しみにしてて」


「さあ、着替えておいで。そこの扉の中に更衣室があるから」

「はーい」

「ゆっくり歩いて。体が浮き上がるから」

「うわっ」

ラグレンの体が1メートルほど浮き上がる。

「ほんとだ」

子供たちは慣れない低重力に驚きながら更衣室に向かう。アグナスさんも一緒だ。


「着替えたよー」

ラグレンとエルネクが先に出てくる。ラグレンは緑、エルネクは赤い水着を着ている。

「お待たせ」

カルラとエレナも水着に着替えている。カルラは青、エレナはオレンジ色の水着だ。

アグナスさんも水着に着替えて更衣室から出てきた。黄色の水着を着ている。


「プールに入る前にそこを通ってシャワーを浴びるんだよ」

エルネクの父が更衣室を出たところにあるシャワーを指さす。

「そっちから入って通り抜けて」


「シャワー?」

「お風呂みたい」

「川で泳ぐときは浴びないのに」

「そうだよね」

4人はいろいろと話しながらシャワーに向かう。

「ここは川のように水が流れていないからね」

アグナスさんが説明する。

「もちろん、水をきれいにする仕組みはあるんだけどね」


アグナスさんと4人はシャワーが並ぶ通路に足を踏み入れる。

「うわ、暖かい」

「ほんとだ、おうちのシャワーみたい」

「ちょっとぬるい」

「早く歩いて」

先頭のラグレンが立ち止まったので、カルラがせかす。


シャワーの通路を通り抜けた5人はプールに向かう。


「並んでる小さな椅子みたいな台は何?」

エレナがプールの手前に並んでいる小さな台を指さす。

「それはスタート台だね。泳ぐ競争をするときにこの台から飛び込むんだよ」

アグナスさんが説明する。

「後で競争しよう」

ラグレンがエルネクに向かっていう。

「うん」


「スタート台はこのあたりにしか並んでない」

プールを上まで見回すと、スタート台があるのは4人がいるあたりだけだ。

「スタート台は、10個だ」

カルラが指でスタート台を差しながら数える。

「10人で競争できるんだね」

数える様子を見ていたエレナがいう。

「大人が泳ぐのかな」

ラグレンもスタート台が気になる。

「そうだろうね。子供は4人しかいないから」

エルネクがこたえる。


「プールに飛び込むときは、ジャンプしてもいいよ」

アグナスさんがいう。

「深さは場所によって違うんだ。プールの底が薄い水色のところがあさくて、濃い青のところが深い」

プールの方を指さすアグナスさん。

「飛び込むなら濃い青のところに飛び込むんだよ」


「はい」

「浮き輪を持ってきてるから使って」

エルネクの母が浮き輪を二つプールに投げ込む。


「お先に!」

そういうとラグレンがプールに向かって走ると高く飛びあがる。

「わあ」

「高い!」

身長よりも高く飛びあがったことにラグレン本人も驚いている。

そのまま足からプールに落下するラグレン。水しぶきが高く上がる。

「なんかゆっくり落ちてた」

「うん。水の動きもゆっくりだ」

「ぼくも飛び込むよ」

そういうとエルネクもプールに飛び込む。


「わたしはここから入る」

エレナはそういうとプールに降りるはしごからプールに入る。カルラも続く。

「そんなに冷たくない」


「わたしも飛び込むとするかな」

アグナスさんはそういうとスタート台から高くジャンプする。ラグレンやエルネクを飛び越え、大きな水しぶきを上げてプールに落下する。4人が歓声を上げる。


「丸壁まで行ってみようよ」

ラグレンがみんなに呼びかける。

「50メートル泳げる?」

エルネクがラグレンにたずねる。

「もちろん」


「ちょっと待って。向こうまで行ったらまた泳いで戻ってくるから、100メートル泳がないといけないよ」

エレナがちょっと心配そうだ。

「それくらい大丈夫」

ラグレンがこたえる。


「ここからだと見えないけど、丸壁からこのプールの下を通って戻ってこれる通路があるんだ」

アグナスさんがラグレン、エルネクが浮かんでるところにやってくる。


「100メートルくらい泳げるけど」

ラグレンがちょっと不満そうだ。


「もちろん泳いでもいいんだけど、滑り台があるんだよ。ぼくも一緒に行って、丸壁のところで案内するよ」

アグナスさんがそういうと目が輝く二人。

「滑り台!」

ラグレンの目が輝く。。

「うん。50メートルの滑り台だよ」

「滑り台があるんだって」

ラグレンがエレナとカルラの方に大声で伝える。


「競争する?」

ラグレンがエルネクに尋ねる。

「もちろん」

「じゃあスタート!」

そういうと二人は丸壁に向かって泳ぎ始める。

エレナとカルラも浮き輪を使い追いかける。アグナスさんも一緒に泳ぎだす。腕を回転させる独特の泳ぎ方だ。


ラグレンが最初に丸壁に到着する。

「いちばーん」

ラグレンがさけぶ。

「もうちょっとだったのに」

直後に到着したエルネクが悔しがる。


「やわらかいね。ふわふわだ」

ラグレンが壁に登ろうと壁をさわっている。

「このでこぼこしたところをつかめばプールから上がれるよ」

エルネクがそういうとプールからあがる。丸壁側には1メートル程の幅の通路があり、ここもやわらかい。

プールから上がったエルネクが、太陽の壁側にいる両親に手を振る。エルネクに気づいた両親も手を振ってこたえる。

エレナとカルラ、アグナスさんも到着する。


「遠くからは見えにくいけど、ここから裏に入れるんだよ」

プールから上がったアグナスさんはそういうと、ちょっと奥まったところを指さす。

同じ色なので遠くからはわからないが、丸壁はところどころに奥行きがあって、そこに入ると壁の裏側に回り込める。

4人が壁の裏を除くと、階段と滑り台のようなものが見える。滑り台には水が流れている。


「この滑り台で太陽の壁の方まで滑って戻れるんだ」

アグナスさんが説明する。

「へー」

「楽しそう」

「ゆっくり流れてるね」

「ここは遠心力が小さいから、水が流れるのもゆっくりなんだよ」


「階段を降りれば通路を歩いても戻れるけどね」

「絶対滑り台がいいよ」

そういうとラグレンが滑り台に向かう。滑り台手前の手すりをつかみ、滑り台に乗り込む。

「いくよー」

そういうと手すりから手を離すと水と一緒に滑っていく。


「ぶつからないようにちょっと時間を空けてからだよ」

アグナスさんが残った3人に注意する。


「次はわたし」

そういうとカルラが滑っていく。

「その後はわたし」

エレナがカルラに続く。

楽しそうな歓声が聞こえてくる。

残ったのはアグナスさんとエルネクだけだ。


「それじゃあ、先にいくね」

そういうとエルネクは手すりをつかみ滑り台に乗り、すぐに手を放す。

滑り出しの速度は遅く、スピードも思ったよりもあがらないので変な感じだ。プールの下あたりまでくると傾斜が緩やかになり、滑り台を滑っているというより水で流されているような感じだなとエルネクは思う。建物の廊下に水路が作られているようなつくりで、ちょっと不思議な気がする。前を見ると先に滑ったエレナがちょうど終点に着いたところで、先に到着している2人がエルネクに向かって手を振っている。エルネクも手を振る。滑り台の終点は小さな池のようなになっていて、滑り台から水が流れ込んでいる。速度も遅いので、滑り台の終点でため池に足をついて立ち上がる。


「あ、アグナスさんも来たよ」

振り返ると、アグナスさんがこっちに向かって手を振っている。みんなも手を振ってこたえる。


「お待たせー」

アグナスさんは滑り台の最後で立ち上がらずそのままお尻からため池に飛び込む。水しぶきが大きく上がり、みんな歓声を上げる。

「そこの階段を上がれば元のところだよ」


「もう一回滑ってきていい?」

ラグレンがアグナスさんにたずねる。

「もちろん」

「やったー」

「わたしも」

「天井に頭をぶつけないようにね」

アグナスさんが呼びかける。

4人とも廊下を走って戻るが、体が思ったよりも上に飛び上がる。


「あれー」

「なにこれ」

「天井も柔らかい」

天井まで体が上がったラグレンがいう。

「ほんとだ」

エルネクも手を伸ばして天井を触ってみる。


「真後ろに蹴るようにすれば飛び上がらずに前に進めるよ」

エレナが呼びかける。

「ちょっと慣れてきた」


4人は思ったよりも高く飛び上がったり一歩の歩幅が大きくなるので驚くが、50メートルの距離を進むうちにコツをつかんでくる。

滑り台を3回滑った後、4人はプールに戻る。


「ここを一周泳いでみようよ」

ラグレンが真上を見上げながらいう。

「直径は20メートルだから、一周回ったら60メートル以上あるよ」

「丸壁より遠いね」

「足の着くところを泳げば疲れたらいつでも休めるから大丈夫だよ」

ラグレンはそういうと泳ぎだそうとする。


「みんなプールからあがって」

一周回るか話し合っていると、エルネクの父が4人に呼びかける。


「今、ここを一周しようかって話してたんだ」

エルネクがこたえる。


「休憩にしようか。こっちに飲み物あるから」

アグナスさんがそういうと、子供たちはみんなプールからあがり休憩する。太陽の壁際にはベンチが並んでいて、テーブルも用意されている。


「そういえば、投げたボールが横にずれる理由だけど、よく突き止めたね」

お茶を一口飲むとアグナスさんがいう。

「うん。大したもんだ」

エルネクの父も感心する。


「アグナスさんやルラサさんがヒントをくれたからだよ」

エルネクがこたえる。

「疑問をもっていろいろと調べ始めたのは君たちだよ。ぼくはちょっと考える方向のヒントを伝えただけだよ」

アグナスさんがいう。

「今日プールに連れてきたのは、みんながいろいろなことを自分たちで調べていることへのご褒美なんだよ」

アグナスさんが子供たちにいう。


「そう。単に遊んでるだけじゃなくて、疑問を持つというところがみんなのすごいところ」

エルネクの母も嬉しそうにいう。

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