第13話 回転1

「ねえ、どういうこと?」

「いまもボールは自転車が進む方に飛んだように見えたけど」

カルラが質問する。

「地面に立って見てるとボールは自転車と同じ方向に飛んでいくように見えるけど、一緒に走ってる自転車からだとまっすぐ飛んでくるように見えるんだ」

「へー」

「ボールと一緒に前に進んでるから、自転車からはボールは前に進んでるようには見えなくて、真横に進んでるように見える」

「なんか難しいね」


「じゃあ、今度はエルネクからぼくにボールを投げてよ」

ラグレンはそういうと、自転車の向きを反対方向に変える。

「いいよ」

そういうとエルネクも自転車の向きを変え、ボールをもって一緒に走り始める。


「エルネクからぼくの方にボールがまっすぐ飛んできたように見えたよ」

「そこから東の方に向かって走りながら、ボールを上に投げてみて」

「上?」

「うん。手のひらに乗せて軽く上にあげるだけでいいよ」

「じゃあ、やってみるよ」

そういうとラグレンは自転車で東の方に向かって走りながら、右手に乗せたボールを上に放り投げる。

ボールは顔の高さまで上がって落下し、手のひらに戻る。

「キャッチしたよ」


「自転車と一緒にボールも動くから、手の上に落ちてくるんだよね」

「もしここが回ってるなら、ここでボールを上に投げたら同じようになりそうだけど東側にずれるんだよね」

「うん。地面も一緒に動いてるなら、ボールを上に投げたら同じところに落ちてくるはず」

「そうだよね」

「なんでかな」


「やあ、みんな」

アグナスさんが自転車に乗って公園にやってくる。ルラサさんも一緒だ。

「こんにちは」

4人は二人にあいさつする。


「今日はなにしてるんだい?」

自転車から降りるとアグナスさんがたずねる。


「自転車に乗ってボールを投げたらどう見えるか試してるんだ」

ラグレンがいう。

「昨日、ボールをいろんな方向に投げたんだけど、北とか南に投げると東に向きに曲がるんだ」

エルネクが説明する。

「それで、これってもしかしたらここが回転してるからかもって思っていろいろ試してるんだ」


顔を見合わせるアグナスさんとルラサさん。

「ほう。それはすごいな」

アグナスさんが子供たちに向かっていう。

「回転とむすびつけるたは大したもんだ」

ルラサさんも感心している。


「それで、どういったことを試してるんだい?」

アグナスさんが新ためて子供たちにたずねる。


「ボールをいろんな方向に投げてみたんだ」

ラグレンが最初に説明する。アグナスさんがうなずく。

「それから、自転車で走りながらボールを真横に投げてみたんだ」

ラグレンが続ける。


「そうすると、真横に投げたのに自転車の進む方向に飛んでいくんだよ」

カルラが付け加える。

「それで、最初はここも東向きに回転していて、だからボールが東の方に曲がるのかと思ったんだ」

エルネクも説明する。


「なるほど。最初は、ということは違ったのかな?」

アグナスさんが質問する。


「並んで自転車で走って、同じ速さで走ってる隣の自転車に向けて真横にボールを投げると、まっすぐ飛ぶんだ」

ラグレンが早口で説明する。

「自転車から見るとまっすぐ飛んでるように見えるんだ。立ってるところからみると自転車が進む方向にボールも進むんだけど、」

エルネクが付け加える。


「ほう。よく気が付いたね」

ルラサさんが感心する。


「ここが回転してるなら地面も一緒に動いてるから、ボールはまっすぐ飛ぶはずなのに東に曲がるのはなんでだろうって話してたんです」

エレナが説明する。


「なるほど。よく調べてるね」

アグナスさんがいう。

「自転車からボールを投げて試すのはいい思いつきだね」

ルラサさんも感心している。


「もしかして、大人が自転車ですぐに足をつくのは、東に引っ張られるのが苦手だからですか?」

エレナがたずねる。

アグナスさんとルラサさんが顔を見合わせる。

「ああ、まあそうだね。東の方向にかかる力にうまく対応できないからだね」

ルラサさんがこたえる。

「ぼくは最近慣れてきたよ」

アグナスさんが自慢げにいう。

「自転車が苦手な原因をよく見抜いたね。たいしたもんだ」


「なぜ東にの方に引っ張られるのか知ってますか?」

エルネクが二人に質問する。


「東の方向に力がかかる理由は、そうだな、これはちょっと難しいかな。動いている自転車からボールを真横に投げた時に、自転車が進む前の方にいっしょに動くのと基本的には同じことなんだけどね」

アグナスさんがいう。耳がちょっと前の方向を向く。大人が考え込んでいる時の耳の動きだ。


「でも地面も一緒に動いてるならまっすぐ飛ぶように見えるんじゃないんですか?」

エレナが質問する。3人もうなずく。

「一緒じゃないんだな」

アグサスさんがこたえる。


「え? そうなんですか?」

子供たちが驚く。

「うん。これを説明するには図を描かないと難しいんじゃないかな」

ルラサさんがアグナスさんに向かっていう。


「そうだね。自転車からボールを投げる場合を図にしてみるね」

そういうとルラサさんは肩にかけたかばんからタブレットを取り出す。


4人はルラサさんの周りに集まりタブレットをのぞき込む。

タブレットの側面から取り外したペンでタブレットにまっすぐな線を2本平行に引く。


「自転車」

ルラサさんがそういいながらペンで二本の線の端っこをそれぞれタップすると、自転車の絵が表示される。

「慣性の法則、二台の自転車が線の上を移動、一方の自転車から隣の自転車にボールを投げる」


自転車の絵が人が乗った自転車に変わり、線の上を進み始める。進み始めてすぐに左側の自転車から右がの自転車に向けてボールが投げられる。隣の自転車に乗った人がキャッチする。


「もう一回。今度はボールの軌跡を残して」

そういうと、自転車が元の位置に戻り再度進み始める。ボールが投げられると、今後はボールが進んだ場所に線が残る。

ボールは自転車と同じように前に進みながら隣の自転車に向かって斜めの線を描きながら飛んでいく。

「斜めに飛んでる!」

ラグレンが驚いたようにいう。


「うん。今度は自転車からどう見えるか」

「自転車視点でもう一回」

視点が変わり、自転車を横から見る図に変わる。

「スタート」

自転車が進み始めるが視点は自転車に固定されているので、地面のマス目が動くだけだ。

ボールが投げられる。自転車と同じ方向に動いているので、左右には動かずまっすぐに手前に向かってくる。

「まっすぐ飛んでくる」

「そうだね。視点によって斜めに進んだりまっすぐ進むように見えるんだ」

アグナスさんが説明する。

「ぼくらが試した時と同じだ」

エルネクがいう。


「そうだね。で、今のボールと自転車の動きなんだけど、自転車の進む方向とボールを投げた方向にこうやって矢印をひいて、この二つの矢印の反対側にも同じ長さの線を引いて長方形にすると、ボールが進んだ斜めの線はこの長方形の対角線になるんだよ」

ルラサさんが説明する。

「へー」


「で、ここは円筒形をしているけど、もしここが回転しているとしたら投げたボールはどうなるか」

ルラサさんがたずねる。


「回転しているから、進む方向の矢印も曲がるのかな」

エルネクは指で曲線を描きながらいう。


「なるほど。そう考えるのも無理はないか」

アグナスさんがいう。ルラサさんも考え込む。


「ボールを投げる瞬間にボールにかかる力は直線で表せるんだよ」

そういうとルラサさんはタブレットに丸を描く。ペンで大まかな円を描いて「円」というと手書きのちょっとゆがんだ円がコンパスで描いたようなきれいな形になる。

「ボールを真上に投げる場合で説明するよ。わかりやすいからね」


「この円がここね」

そういうと、右腕をぐるっと回して指でこの街の地面を指す。

「直径120メートル」

ラグレンがいう。

「そうだね」


「ここで真上にボールを投げる場合、真上というのはこの円の中心の方向だけど、中心に向かう矢印が引けるよね」

そういうと、円を描く線から中心に向かって半径の半分くらいまでの矢印を描く。


「この円周から円の中心に向かって線を引く場合、ここは直角になるんだ」

ルラサさんは矢印の起点のところに、矢印と直角になる真横の線を引く。

「円の中心からどこに線をひいても、地面のところではみんな直角になるんですか?」

エレナが質問する。

「そうだよ」


「それで、この円が右回りに回転しているとしたら、回転の力は左の方向にかかるんだけど、その方向はこの線、接線っていうんだけど、この線の方に真横にかかるんだ。中心に向かう線に対して直角の方向だね」

「へー」


「さっきの自転車と同じように平行の線を引いて長方形を作るよ」

そういうとルラサさんは、最初に書いた中心まで半分まで引いた矢印と、接線を辺にした長方形を描く。

「この長方形の対角線に沿ってボールが進むんですか?」

エレナがたずねる。

「そうだよ。この対角線にそってボールはまっすぐ進むんだ」

「えー? でもボールは曲がったよ。こんな感じで」

ラグレンはボールを真上に投げた際の放物線を手で表す。

ボールを持っているエルネクがボールを軽く上に放り投げる。ボールは放物線を描きちょっと東側にずれて落下してくる。


「うん。ボールはこの対角線上をまっすぐ進んでるんだけど、曲がるように見えるんだ」

ボールの動きを見ていたルラサさんがいう。

「え? まっすぐ進んでるボールが曲がってるように見えてるの?」

エルネクがちょっと目を見開き驚いた表情をする。


「そうは見えなかったけど」

エレナも不思議そうだ。

「うん。曲がりながら進んでたよ」

ラグレンも同意する。

「そうだよね。まっすぐは進んでなかった」

カルラもいう。4人はみんな驚いている。


「なぜ曲がって見えるかというと、この円が回転していることが関係してるんだけど、ここから先は君たちで考えてみて」

そういうと、ルラサさんはタブレットをかばんにしまう。


「なぜ曲がって見えるのかわかったら教えてよ」

アグナスさんはそういうと、二人は自転車に乗り公園から出ていく。ルラサさんは振り返り手を振っている。4人も手を振る。


「アグナスさんは自転車に慣れてきたっていってたけど、まだあまり乗れてないね」

エレナがいう。

足で地面を蹴って進む二人を見送る4人。

「そうだよね。公園を出るまで2回は足ついてた」

カルラも同意する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る