第11話 変な動き2

昼食の後、公園に集まる4人。


「お父さんが家にいたからボールが曲がることを聞いてみたんだけど、なんでだろうねっていわれただけだったよ」

ラグレンがいう。

「高さを測ってたときも教えてくれなかったよね」

カルラもここの直径を聞いた時のことを思い出す.

「僕も。お母さんたちも知らないのかな」

エルネクも同意する。

「そんなことはないと思うんだけどな」

エレナも不思議そうだ。


「いろいろ試してみようよ」

エルネクが提案する。


「何かに引っ張られてるか押されたりしてるのかな」

ラグレンが手に持ったボールを見ながらいう。

「そうだとしたら、地面にボールを置いたら転がると思うんだ」

エルネクがいう。


「そうだよね」

ラグレンがボールを芝の上に置くが、ボールは置いたところに止まったままだ。


「芝だと転がりにくいのかもしれないよ」

カルラが指摘する。


「そこのベンチで試そうよ」

ラグレンが提案する。

公園の周りには歩道があり、歩道沿いにはベンチがいくつか設置されている。

ベンチには背もたれがあって座るところが曲がっているものと、背もたれがなく平らな形のものがある。


4人は背もたれのないベンチのところにやってくる。ラグレンがボールをベンチの上にそっと置く。


「やっぱり転がらない」

ラグレンはそういうとボールを指でつつく。

ボールが転がり始める。転がるにつれて東の方に曲がり始め、地面に落ちる。


「曲がったよね」

カルラはそういうとボールを拾う。


「北の方向に転がして右にまがったから、東の方だね」

エレナはボールが転がった軌跡を指でなぞる。


「あっちのベンチは西と東の向きになってるからあっちで試そうよ」

ラグレンはそういうとちょっと離れたところにあるベンチに向かって駆け出す。

4人は芝を横切って東西の方向に沿って設置されているベンチのところにくる。

カルラがボールを置くと、ラグレンが西に向かって転がす。


「まっすぐ転がるね」

カルラがいう。

「こっちからも一緒かな」

ボールを拾ったエルネクが西から東に向かって転がす。ボールはまっすぐに転がる。


「北と南の方に動かすと曲がるのか」

エルネクはそういいながら腕を組む。

「ふしぎー」

「なんでだろう」


エレナがボールを拾い、ベンチの上のそっと置く。

「止まってるときは何もおきないけど、動いたら東の方に引っ張られるんだね」


「動かすと東の方に引っ張られる」

エルネクが確認するようにいう。

「なんでー」

「なんか変」

「なんだろうな」


「ボールを真上に投げるとどうかな。北でも南でもないし」

そういうとエルネクはボールを手に取り手のひらに乗せ、真上に放り投げる。

ボールはエルネク頭のちょっと上くらいの高さまで上昇し落下する。ボールはちょっと東側にずれて落ちてくる。


「やっぱりちょっと東の方にずれる」

ボールをキャッチしたエルネクがいう。

「ボール貸して」

ラグレンがそういうとエルネクからボールを受け取り、上に放り投げる。今後はもっと高く、身長の三倍くらいの高さまで上がる。ボールは小さく放物線を描く。


「やっぱり東にずれて落ちてくるよ」

ラグレンもボールを放り投げた位置とキャッチした位置がちょっと東にずれていることを確認する。


「南北の方向に投げなくても東に動くんだね」

エレナがいう。

「もう一回やってみる」

ラグレンはそういうと、何度かボールを上に放り投げる。


「ジャンプしてもそうなるかな」

そういうとエルネクは足の位置を確認すると膝を曲げ真上に思いっきりジャンプ。着地すると足元を確かめる。

「やっぱり。ジャンプしたところからちょっと横に着地してる。靴の幅くらいかな。東だよ」


「ほんとに?」

エレナとカルラもジャンプする。


「目印忘れたからもう一回」

そういうとカルラはもう一回ジャンプする。

「ほんとだ。ちょっと東に着地する」


「東に押されたり引っ張られたりする感覚はないよね」

エレナが3人にたずねる。


「うん。真上にジャンプしてそのまま着地したようにしか感じない」

カルラがこたえる。エルネクもラグレンもうなずく。

「そうだよね。足元を見ないと東の方に動いてるって気づかない」

エレナも足元を見ながらいう。


「ボールを西とか東向きに投げた時も引っ張られてるのかな」

エルネクはボールを持っているラグレンの方を見る。

「まっすぐに飛んだよ」

ラグレンがこたえる。

「うん。そうだけど、なんか東向きに投げたほうが遠くまで飛ぶような気がするな」

エルネクは東の方を指さしながらこたえる。


「東に引っ張られるから?」

エレナがエルネクの方を向いてたずねる。


「うん。逆に西の方に投げると逆にあまり遠くに投げられないと思う。試してみよう」

そういうとエルネクはボールを持ってるラグレンの東の方に走って移動する。

「投げてー」

ラグレンに呼びかける。


ラグレンがエルネクに向かってボールを投げる。ボールはエルネクに向かってまっすぐ進み、頭の上あたりに飛んでいく。

頭の上に腕を伸ばしてボールをキャッチしたエルネクがラグレンに向かっていう。

「やっぱり東向きだとボールが伸びるような感じだよ」

指でボールの軌跡をなぞるように動かす。

「今度はラグレンがこっち側にきてもう一回投げてみて」

エルネクはそういうとラグレンの方に向かって歩き出す。


「わかった」

ラグレンも位置を入れ替わるために小走りで移動する。すれ違うところでエルネクはラグレンにボールを渡す。

「さっきと同じ力で投げて」

エルネクが呼びかける。


「いくよー」

そういうとラグレンがボールを投げる。ボールはエルネクの頭の上あたりをめがけて飛んでいくが、地面の方に向かい始める。エルネクはボールを腹のあたりでキャッチする。

「あれ? ボールがすぐに落ち始める」

ラグレンがいう。

「うん。最初は同じ感じだけど、ボールがこっちに近づくと下の方に向かうね」

エルネクはボールをラグレンに投げ返す。


「動いたら東に引っ張られるんだね」

エレナが独り言のようにいう。

「うん。動かないと引っ張られない」

エルネクがそれにこたえる。

考え込む4人。


「地面から離れると東に引っ張られるのかな」

エレナがいう。

「でも、走ったり自転車に乗ってる時もなんかひっぱられてる感じがするよ」

エルネクが走ってるように腕を動かす。

「そうだよね。まっすぐ走ろうとしてるのに横の方に行きそうになることがある」

ラグレンがいう。

「そういえばそうだね。走る方向によって感覚が違うよね」

エレナも走っているときのことを思い出す.


「確かに、まっすぐ走ろうとしてる時に、曲がらないように気を付けてる」

カルラも同意する。


「東の方に引っ張られるから曲がらないようにしてるんだよ」

エルネクがいう。


「自転車ってまっすぐ走りにくい時があるけど、東に引っ張られてるからだったのか」

そういうと自転車の方を見るラグレン。


「地面から離れてなくても引っ張られるということか」

エルネクは考え込む。


「もしかして」

エレナが3人の方を見る。

「大人が自転車でこけたり歩くのが遅いのは、この東に引っ張られるのが苦手だからかな」


「なるほど。そうなのかも」

エルネクもその可能性に思い当たる。


「自転車に長く乗れてるときは、西とか東に向かってるときなのかもね」

「なんで大人になると苦手になるんだろ」

「見た目も大きく変わるし、そのあたりの感覚も変わっちゃうのかな」

「自転車にちゃんと乗れないのは嫌だな」

「タルカさんは練習したら乗れるっていってたよ」


4人はそれぞれ思いついたことをしゃべりだすが、みんなちょっと不安そうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る