俺たちの戦いはこれからだ!(迫真)


「いい写真……ホーム画面にしよっかな」


 こたつであったまりながら携帯の液晶をじっと見つめる。


 真ん中の私が両側にいる二人に肩を回しながら満面の笑みを浮かべていて、二人も渋々ながらカメラに目を向けて、笑顔を浮かべてピースサインをとっている。


「あ、そうだ! この写真、ママに送ってあげよう!」


 メッセージアプリを起動して、


『同じ部活の仲間!』


 と、一言添えて画像を送る。



 心配性のママは私のことをひどく心配している。年齢が一つ下の新しいクラスに私が馴染めていないことが私の普段の様子から何となく分かったみたい。

 ちょくちょく「さらは誰と仲が良いの?」とか「休み時間は何してるの?」とか、色々と聞かれる。


『いい写真!』


 すぐにママから返信があった。

 喜んでくれたのならこっちまで嬉しくなる。


『今度ぜひ、おうちに呼ぶといいわ』


 ママから追加のメッセージが入った。


「ねえ、二人とも、今度私の家に遊びに来てよ。ママが会いたいってさ」


 山市君と二宮君に携帯の画面を見せながら話しかける。すると、


「え、無理無理無理。え、めっちゃ怖い」

「オレたちの素行を考えると殺される気しかしない」


 二人とも即答する。


「待て。オレたちって言ってるけどお前のSNSが端を発したリク兄事件に関しては、俺は無関係だからな。勝手に巻き込むな」

「なっ!? 元はと言えば、お前がバス停で妹にあんなことを言わせるからであって……」

「それはこいつがバカだからだろ!?」

「う、うるさいよっ!」

「つーか普通、どこのどいつが公衆の面前で自分の経験人数を──」

「もうやめて! 分かったから! この話は無しで!」


 ママに部活仲間を紹介するのは当分先になりそう。


 ちなみに後日談だけど、例の放送は各方面から怒られるどころか、生徒から好評の嵐だったみたい。ちょうどいい息抜きになったのか、受験が近い3年生から次回の放送の期待する声が佐藤先生に寄せられていると聞いた時は、正気かと疑ってしまった。

 同様の訴えが二宮君のアカウントにも殺到しているみたい……みんな疲れてるの? 頭、大丈夫?


「ねえねえ、また今度もお昼の放送やってって頼まれたらどうする?」

「俺はパス」

「オレもだな。妹一人でやればいいじゃないか」

「え、私一人!?」


 てっきり、またやってくれると思ったのに……。


「……ねえ、みんなでやろうよ?」

「つっても、みんな泉ちゃんの声が聞きたいだろうし」

「オレと山市には特に出る必要も需要もない」

「そんなあ……」


 基本バカなテンションなのに、意外にこういうとこ冷めてるのかあ……。

 なんとか二人をやる気にさせないと……!


「でも、2年の友達が二人のことをすっごい褒めてたよ! 面白いって!」

「んなこと言われてもなあ……」

「別に面白いって思われたいわけじゃないんだが」


 全然二人が乗ってこない……。

 しょうがないね。もうここは嘘でも──


「あと、かっこいいって言ってたよ。付き合いたいって──」

「よしやろうぜ。次は来週でいいよな?」

「愚問だな。準備は任せておけ」

「……」


 何か負けた気がするのは気のせいかな……。


「いや待て。こいつは年上好きだからいいが……」


 二宮君が山市君を指さしながら言う。

 妹好きの二宮君にはあまり響いていないみたい。それなら──


「でも、4月から1年生が入学してくるんだよ? それまで放送が続いてたら、二宮君の妹たちに自分を知ってもらえる絶好の機会じゃない?」

「……確かに! そうなればやるしかないだろう!」


 二宮君は目を輝かせる。

 これで二人ともやる気になってくれたはず。


「まあでも、リク兄はともかく、俺のことを気にかけているやつなんてほとんどいないだろうけどな。多分放送でも山市って名前出てなかったんじゃね?」

「そうか? オレのアカウントにやたらとお前とオレの関係を聞いてくる人が少なからずいたけどな。まあ泉ちゃん界隈でお前の名前が上がることがなかったからだろう」

「へーそうなのか……って更科どした?」

「え、えっ!? な、なに!?」


 声が裏返ってしまった。


「いや今、あからさまに視線が泳いでたよな?」

「い、いやあ、そんなことないよ!」

「怪しいな……」


 を知られたら、絶対一緒に放送してくれない……。


「そういえば放送の反響で気になることがあったんだが……」


 二宮君が口にする。


「なんだよ?」

「いや、今までのオレの泉ちゃん推しのアカウントってほとんど男子がフォロワーだったんだが、放送以降、急に女子のフォロワーが増えたんだよ」

「はあ、自慢かよ!?」

「いや違うんだ。そういう人はなぜか泉ちゃんよりオレとお前の関係を聞いてくるんだよ」

「はあ? どうせイケメンのお前と接点を持とうとして、ちょうどいいところにいた俺を経由してるだけだろ……畜生! 俺を踏み台にしやがって!」

「ま、まあまあ……それより──」


 結局、その話題は流れた。


 本人たちには知らない方がいいこともある。


 実は放送後、気になってエゴサ(長時間)をしていると、泉ちゃんの陰に隠れてにわかに盛り上がりを見せていた界隈があった。


『私、陸×空に目覚めたかもしれん』

『陸空推しの私にとって今日の放送はご褒美。尊死するレベル』

『やっぱり同志がいたかw』

『職員玄関前で体をまさぐり合う写真はどこ? 全財産で買い取りたい』


 意味を理解した私はそっと携帯をオフにした。



  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 以上で本作は一区切りとなります。

 ここまで読んでいただきありがとうございました!

 今後の更新については近況ノートに綴ったので興味のある方は是非!

https://kakuyomu.jp/users/Tottotto7/news/16816452218984897135

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