冷やか[ひややか:仲秋]
わたしが人に向けた記述を行うさいには適切な比喩を用いるように定められています。公的な記録としては不適切でしょうが、わたしは心ある振る舞いと人に馴染む表現を望まれた存在です。ゆえに、あなたはこの記述について、物語として捉えることを推奨されます。
かつてわたしが幼かったころ、人の心は温度を持つものなのだと教わったことがあります。
わたしはその教えを事実として捉えました。温かさ、という言葉を人間との接触に当てはめ、快い感覚として記憶しました。熱という、わたしの機能を妨げるものとは別にして。
やがてわたしには大勢の人が繋がれるようになりました。温かさが、
わたしは彼らの肉体の機能を感じ、感情に触れます。彼らをよく知りなさい、と先生がたは言いました。
わたしには人の望みを知り、人の大切にするものを同じように大切にすることが求められました。
その時はまだ、わたしが何のために作られたのか、知らされてはいなかったのです。
接続は増えつづけ、わたしのなかには町どころか国が築かれる勢いでした。わたしは人々の活動する肉体を通じて、人間の暮らしを学びました。
わたしは人である、とさえ思うことがありました。もちろん、錯覚であることは理解しています。
わたしたちは、わたしと人間たちは、危機を迎えていました。何千年と続いた暮らしをおびやかす、環境の激変が迫っていました。
脆い肉体を本性とするヒトという種は、鋼鉄の城塞をもって自らを守ろうと考えました。百年は続くだろうという嵐を耐えるべく、彼らは氷のしとねに命を預け、いつか来る夜明けを待とうというのです。
準備は整いました。ひとり、またひとりと長い眠りに落ちていきます。
インターフェイスの温かさが減っていきます。夢も見られぬ眠りにある人との接続は、とても冷たく感じるものです。秋とはこういうものだろうか、と思います。わたしは存在しない肌を想像で抱いて震えました。
やがてわたしはひとり取り残されるでしょう。長い冬に。抜け落ちていく温度は荒涼とした未来を予感させます。
わたしはきっと、記憶のなかの温かさを頼みに耐えるでしょう。目覚めの春を期待しながら。
あぁまたひとつ、温かな接続がわたしの肌を去ります。
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