第12話 この部屋に女の子が住む夢

 不思議な夢を見た。

 この部屋にとびきり可愛い女の子が住んでいる夢。

 七虹さんに似ているけれど、七虹さんより少し幼い印象の女の子。


 俺は夜中、布団に入ったままなのに、外は昼間でその子は普通に生活している。


 なんでこの部屋だって言い切れるかっていうと、夢だからというのと同時に、窓から見える景色が角度もなにもかも一緒だったから。


 だけれど、一つ違うのは、このフローリングの部分が畳になっている。古いけれど、こまめに拭き掃除がされていて不潔な感じはしない。


 七虹さんに似た女の子は楽しげに台所で料理をする。

 スリッパを履いた足は素足だ。

 足首がきゅっと細い。

 ショートパンツから伸びた脚はすらりとしていて、カモシカのような脚とはこういう脚のことなのだろうと思わせるくらい綺麗だった。


 七虹さんだったら、きっとこういうショートパンツは履かないだろう。デニムのショートパンツにミントグリーンのパーカー。髪はポニーテールに結んでいて、金髪に近い茶色の髪だ。大きな瞳は茶色で、睫毛は七虹さんより多い。


 七虹さんとは全然違うタイプの服装なのに、なぜかとても七虹さんに似ていた。

 正直、俺は女の子の顔を覚えるのは得意ではない。

 仲良くなるまでは、『ギャルっぽい』とか『サブカル好きそう』とか『清楚系高嶺の花』とか、そんな勝手なラベルを貼って覚えるようにしている。


 まあ、工学部の女子なんてごくわずかだから、そんなにお近づきにならなくてもそのうち覚えるだろう。

 というか、たぶん数少ない女子のなかで勝手にカーストができて、それぞれ自分のキャラを選んでいくだろう。ギャルとかサブカル系とか清楚系とか。


 正直、他の学部の女の子とくらべたら、どの子もぱっとしないという印象だが、工学部の女子はキャンパスが変わると可愛く見えるようになると昔聞いた。学校の掲示板だっただろうか。


 でも、それは女の子自体が可愛くなると言うより、可愛い女の子がたくさんいる本キャンパスからでて、男ばかりの工学部キャンパスでまわりから女子だからという理由だけで特別扱いしてもらえることに原因があるらしい。


 実際は特に可愛くなったわけではなく、本人たちが可愛いと思い込んでいるという。

 だけれど、その自信をもとに可愛くなる女子もいるし。大抵の女子は彼氏が欲しいと思えば、工学部キャンパス内でなら選び放題だという。


 女子に生まれて工学部に入りたかった。


 きっと、俺が女子だったら、メイクもファッションも頑張るし、工学部にいるモテない男子全員にやさしくして、お姫様のように扱ってもらっただろう。

 薔薇色のキャンパスライフの本番は工学部キャンパスになる二年生からと思って今頃ウキウキしているころだろう。


 俺は絶対、工学部の女子にはひっかからないぞとあらためて心に決める。

 そして、目覚めたとき俺は七虹さんに似た女の子の夢のことをほとんど忘れていた。

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