異世界カードクリエイターズ! ~なんの力もない無能、ただ異世界で自由にカードゲームを作ってただけなのに、いつの間にか皆を救う英雄になっていました!?~

フォトンうさぎ

◇1 スキル:なし 能力:なし 娯楽:なし

舞川まいかわ創矢そうやァ! お前のスキルねーからァ!』


 うわゴミッ。


 赤と金で彩られた空間に呼び出された俺を迎えたのは、道端に吐き捨てられたガムを見るような視線でした。


 俺も目の前に表示された能力を確認できるパネルへ、同様の視線を送っていたと思う。


 RPGでこんな味方がランダムに引き当てられるのなら、即リセットする程ゴミだった。


『さらに能力もねーからァ!! なーんもねェからァ! はいゴミさよならっ!』


 誰もそんなこと言ってないけど、俺の頭の中でこんな台詞が何度も反芻はんすうする。


 どうして普段は会社員として働いている俺が、いきなりゴミとなったのか?


 答えは異世界に召喚されたからである。

 魔族と戦っている世界へと、他の人と共に勇者として召喚されたらしい。


 普通な人間の俺を勇者として選択する召喚魔法のアルゴリズムを知りてぇ。絶対に理解しきれないだろうけど。


 召喚場所は城の中、魔法陣の上に他の人たち何人か。

 目前には少し高い位置に玉座がどんとあり、そこに白ひげを蓄えた王様が居座っていた。


 そして魔法陣を囲む人たちにまずはステータスを確認せよと言われたので、やけくそでステータスと叫んだ結果がこの様。


『サンダーボルト』とか『超回復』とか周りの人は持っているけど、俺にスキルはなし。能力値も周りと比べて極度に低い。


 はっきり言おう、いや周りに先に言われてるわ、ゴミだと! 初対面の人にそれはないんじゃない?


 泣くぞ? 25歳だが泣くぞ!? 赤ちゃんかと思うくらい泣くぞ!


「スキルを持っていないとは何事か! なんたる者を召喚したのだ。えぇい、いらんいらん! さっさとこの者を城から追い出してしまえ!」


 と、王様に城を追い出されたのは1か月前だったか。

 スキル欄と能力値を見た時の怒り様、忘れたいけど忘れられないと思う。




 俺が召喚されたのは剣と魔法の世界。

 何も知らずに追い出されたので情報はあんまりないが、悪魔みたいな魔族と戦っている世界らしい。


 そんな中で俺、生きてます。なんとか仕事を見つけて生きてます。

 スキルも能力もないので、やっぱりゴミのような視線を向けられることがあります。


 仕事は荷運びとゴミ掃除とゴミ回収。やっていることまでゴミ関連かよちくしょう! 腰が痛む! 




 仕事終わりの夜道。俺は少ない給料で買った小さな硬いパンをかじり、その味に文句をつけた。


「このパン、美味しくねぇ……」


 帰る場所は貧乏人が集まる施療院。街の外周にある小さな教会の隣に存在している施設だ。

 帰るあてのない貧者への救済らしい。宗教のことはよく知らんけど。


 他人と一緒に住むというのにはまだ慣れないが、この世界に帰れる家なんて無いのでしょうがない。


 男ならスキルを磨いて仕事やモンスターとの戦いに活かすのが普通。

 魔族やモンスターと戦っているのだから、鍛えて国のために活躍するのが普通。


 俺、能力がゴミすぎて軍人や冒険者として採用されませんでした。そもそもモンスターと戦うのなんて嫌だからよかったのだけど。

 だって、痛いじゃん怖いじゃん危ないじゃん!


 しかしだ。腐臭に顔をしかめ、道行く人にも顔をしかめられる生活を1か月。


 ……1か月? 1か月だと? ふざけんな!


 なんかこう、あるだろ!? 異世界に召喚でもされたら、1か月も経てばチート能力を得るとか、周りにざまぁをする展開になるとか、可愛い女の子とイチャイチャするとか!


 あるだろ!?


 アニメや漫画みたいな、主人公が覚醒する展開あるだろ!?

 誰だって自分の人生の主人公は自分なんだよ! だから覚醒イベント来てくれよ!


 なんで1か月も経っているのに俺には、「やっぱりこのお宅は絵を捨てることが多いな?」くらいの発見・体験しかないんだよ!


「壁塗りの仕事ってこの世界だと魔法も使うんだー」くらいの発見イベントしかないよ!

 そんなこと発見しても魔力がほとんど無いので魔法は使えないそうです。


 でも、スキルが実はチートでしたとかあるだろ!?

 いやないか! スキルがそもそも無いんだもんなワハハ! 死にたい。


 はー残念。残念過ぎてキレそう、自分の運命もこの世界も呪う。

 こんな世界に放り出した神、○ね! 中指を夜空に向けて立てる!


 仕事の中での出会い? 無いよ? 全員俺含めて小汚い男か、行く当てのない小さな子供達だよ。


 印象に残る家庭ゴミを出す人と言えば、毎日絵を捨てる青い髪をした女性の獣人さんくらいだ。


 美人さんだと思うけど、いつもうつむいていたり、会うなりボソボソ喋ってさっといなくなる。

 一言で言えば、暗い。失礼だけど根暗な人である。


『う、売れないので処分してください……あぅあぅ……』


 3週間ほどゴミを回収し続け、彼女から聞き取れた言葉はこれくらいなものである。いっつも運良く会うなり、すぐに家の中に入ってしまうし。


 だがしかし、捨てられる絵はもったいないと思うくらいに上手いのだ。

 竜とか森の絵とか、引き込まれるくらいだ。


 捨てられた絵をこっそり売って商売、なんてできないだろうなぁ。

 商人ギルドに加入していないと圧倒的不利。入れると思う? 仕入れが盗みの奴。


 夜道は暗い、お先も暗い。金がないから美味い食事にありつけない、娯楽もない。おまけに休日もない。


 会社で働いて家に帰るのなら、ネットサーフィンとか休日に趣味をするとかの娯楽がある。だから会社で働くのは我慢できる。


 でも、この世界での仕事は我慢できなさそう! 無理! 臭いしんどい辞めたい!

 でも最低レベルの暮らしと生きることにありつくために辞められない!


 せめて癒しが! 辛い仕事と環境に見合うだけの娯楽が欲しい!

 カードゲーム仲間と遊ぶとか、大会に出るとかさぁ!


「カードゲームやりてぇなぁ」


「なんじゃそりゃ?」


 ぼやいたところ、すれ違った知らないおじさんにツッコまれた。

 そうか無いんだな。異世界にカードゲームは……。


 それで施療院に帰った後に思いついたのだ。「カードゲーム、自分で作ればよくね?」と。

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