第8話





 食後の運動がてら、魔法の練習をする。マリルの妖精の眼によりモスには魔法吸収と言う取釘があることがわかったわけだが、おどろいたことに魔法を食べてしまっていた。


 しかし吸い込めるのは俺が限界まで手加減した低級魔法くらいで、それ以上のものはモスの魔力の限界を越えてしまうとふつうにダメージを与えてしまうらしい。


 そういうわけで、モスは今日は寝ていてもらうことになった。


 そして自分でも知らなかった技能、【創造と破壊】の力。ためしにまた使ってみると、今度は思い通りに使うことができた。


 魔法が勝手に木々を切ったり岩をレンガ状にけずったりして、ボロ木屋の隣に立派な家が建った。


 あまりに簡単にできてしまったので、俺も唖然となってしまった。


「すげー! タクヤって神様だったのか!?」


 マリルがそんなことを目を輝かせながら言う。


「いや、まさか。見ての通りただの隠居してる薬草研究者だよ」


 そう答えておいて、建物のなかに入った。信じられないくらいに整備されている。雨漏りの心配はないどころか、自分が思い描いたとおりの設計だ。


 どうやらあの創造の魔法はこういう風に物をつくる力があるらしい。当たり前だが社畜時代はこんなことはできなかったことを考えると、老神が言っていたようにこれが神格の力の一部分なのかもしれない。


「まるでアトリエだな」


「すっげえー! あそこに滑り台つくってよ!」


「さて、畑に行くか」


 俺はマリルを無視して、畑へと向かう。


 モスは魔法をもろにくらってダウンしているので、今日はマリルだけがついてきた。


 畑に着くと、作物が荒らされていた。数匹のゴブリンがそのそばでまだ熟していない実や草花を食べている。


「てめえら……!」


 だれが犯人かは明白だった。やつらが逃げる前に、魔法で電撃を落とす。


 気絶したやつらを縛り上げ、どうしたものかと考える。むやみな殺生はするつもりはないが、また作物や薬草の類を荒らされてしまっては困る。


「どうしたものかな……また荒らされちゃかなわんぞ」


 俺は腕組して言う。


「『もうしないから許してゴブ』って言ってるよ」


 マリルが教えてくれる。


「そんなもん信用できるか」


 俺はクワを持ち、ぽんぽんと手のひらにつかの部分を当てる。


「さてと。ゴブリンの素焼きってうまいのかなぁ」


 とぼけた風にそんなことを言ってみる。もちろんそんなゲテモノ趣味はない。


「それか解剖して、薬の材料にしてみるってのも一つの手かな」


 ゴブリンたちのほうを見ると、極寒の地にいるかのように震えている。

 口々になにかよくわからない言語を言った。


「『なんでもするから許してくれゴブ』だって」


「なんでもだと? そうだな。……なら、そうだ。まず土をたがやし……それから栄養のある土をまいて、種を植える。水をすこしやる。わかったか? やってみろ」


 ゴブリンたちは思い思いに俺が最初にやってみせたことのまねごとをはじめる。


「なあ、やっぱりゴブリンの言葉がわかるお前って特殊なのか」


「妖精はいろんな種族とお話ができるって聞いたよ!」


「便利だな……俺もできたらいいのに。いや、さっきの魔法を使ってみるか」


 そうだな。言語がわかるというよりも、感覚を共有できるような魔法がいいかもしれない。


 『感覚共有』。そのままだな。


 俺は自分のこめかみに指をあて、ゴブリンたちに話しかける。


「あー。……聞こえるか?」


「聞こえるゴブ! さっきは荒らしてごめんゴブ」


 ほんとに語尾にゴブがついてるんだな。


「今後やめてくれればいい。農作と言って、食べ物をつくりだすやり方をお前らに教えてやるから、もうするなよ。これから詳しいやり方を教える」


「オッケーゴブ!」


 ノリが軽いな。なんか若い新人が入ってきたみたいだ。


「食べ物がつくれれば、もう人間から食料をうばわなくて済むし、狙われにくくなるねえ兄ちゃん」


 一匹がそんなことを言った。


「そうゴブね。ありがとうゴブ! あんたはすごいゴブ、ゴブリンの神様としてあがめたいくらいゴブ」


「勘弁してくれよ……」


 そんなのはもうたくさんだ。



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