第53話 喉の乾き

 帰宅して玄関ドアの鍵を開けて、中に入ってひと呼吸すると、ドッと疲れが湧き上がってきました。

 もう靴を脱ぐ気力も出ないくらいの疲れを感じていると、もうひとつの感覚も感じました。


……

…………

「喉、乾いたな……」


 私はその衝動に流されるまま、閉めていた玄関ドアをまた開けて外に出て鍵を閉め、徒歩で数分の所にある自販機に向かいました。

 自販機の前に立つと、財布から百円硬貨1枚と十円硬貨を3枚取り出し、自販機に飲ませてボタンを押し、コーヒーを買っていました。その缶コーヒーはブラックでした。


 「カポリ」とプルタブを開けて、中身を一気に喉の奥に流し込みます。缶コーヒーを飲みきって「ふう」とため息をつくと、不意に涙がこぼれてしまいました。


 もう、あのコーヒースタンドの素敵で美味しいコーヒーが飲めないなんて、とても悲しくて悔しくて。どんどん涙がこぼれて、乾いたアスファルトに落ちて涙の粒の跡となって行きました。


 そうしてひとしきり泣いて、声にならない嗚咽をもらして、自販機の傍らにしゃがみこんでいました。

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