第51話 まだ名前も聞けてません

 コーヒースタンド『ピーベリー』が休店となってしまって、お昼の楽しみが無くなってしまったのと、まだ奥の店員さんの名前を聞けてないのとがないまぜになって、私は一瞬、頭の中が真っ白になってしまいました。


「ちょっと、松本さん? 大丈夫?」

 遠藤さんが声をかけてくれて、やっと気持ちが戻ってきました。

「……どうして? まだ名前も聞いてないのに……」

 悲しいとも悔しいともわからない気持ちがこみ上げてきて、私はいつの間にか涙をこぼしていました。

「松本さん? とりあえず会社に戻りましょ。ね? ほらこっち」

 遠藤さんに肩を支えられ、やっとの思いで会社まで戻り、とりあえず休憩のためのイスに座らされて、温かいお湯を渡されました。

 紙コップの中のお湯は私の手のひらを温めてくれて、それが心まで温めてくれているようでした。

 ゆっくりとお湯をすすると、喉の奥まで温かさを感じ、緊張と混乱がほぐれて行く感じがしました。やっと落ち着けました。


「遠藤さん、ありがとう。ちょっと混乱してしまって……」

「仕方ないわよ。あんな貼り紙が突然貼られて休店なんて、混乱もするわ」


 そこで少しだけ間が空きます。

「ええと……。とりあえず落ち着いてから、仕事に戻ってきてね。それまではアタシが仕事を片付けるから」

 そう言って仕事に戻る遠藤さん。私を独りにしてくれたのは、彼女なりの優しさです。


 休店。

 これから、あのお店はどうなるんでしょう。またいつも通りに復活してくれるのでしょうか。心のざわめきは、いつまでも続いていました。

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