Say You Love Me

巴瀬 比紗乃

第1話


《和泉》


 初恋は叶わないと、母の世代ではよく言ったそうだ。

 今はどうだろう。

 SNSを使えば、いくらでも懐かしのあの人と再会することができる。

 以前付き合っていた彼氏から、ともに受験を戦いぬいたクラスメイトまで。

 久しぶり! なんて簡単な会話から始まって、思い出話に花を咲かせて、じゃあ今度一緒にランチ行こうよ! なんて、誘い誘われ。

 いくらだって可能性がある。

 そう簡単に縁はきれなくなった。

 狭い世界に生きていればなおさら、縁はすぐに繋がり、復旧可能。

 叶えようと思えばいつだって、初恋を実らせることはできるだろう。

 けど、所詮、繋がりはただの可能性でしかないーー。


 私の初恋相手はいつも、手の届く場所にいた。




「別れよう」


 聞き覚えのある言葉には、いつも前兆があった。

 今回はRine。

 一ヶ月前に比べるとやりとりの回数は極端に減ったし、返事が返ってきたとしても、簡単なものだった。


「なんで?」


 言い覚えのある言葉には、何の意味もない。

 分かったとすぐに答えるのは、なんだかはばかれただけ。


「だって俺、お前と要の間に割って入れる気しないから。俺には幼馴染なんていないけど、まるで兄弟じゃん、お前ら。ありえないし。俺は要を兄貴だなんて思えねーよ」


 黙ったままでいると、彼氏は毅然とした態度で続けた。


「良いよ、わかんなくて。ただ別れてくれれば、それでいーから」


 そう言う彼の視線は、私ではなく窓の外に向けられていた。


「分かった」


 返事をすると、彼は鼻で笑って、私の部屋を出ていった。

 彼が何度目の彼氏で、何度目の別れなのか。

 数えれば片手で足りる数だろう。

 ただその度に聞いたその言葉は、それ以上に何度も何度も耳にした覚えがあった。

 外を見る。

 少し離れた場所。

 そこにはもうひとつの窓がある。

 開け放たれたままのカーテンの先には、私の部屋とは違う、今は真っ暗な部屋があった。

 見慣れた机やベットが、うっすらと浮かんでいる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る