第6話 やっちまった。家から出たい


 やって、しまった……


 朝陽がようやく昇り始める時間帯。

 まだ薄暗い早朝の静まり返ったリビングで、俺は机に肘をついて頭を抱えていた。


(ど、どうしてあんなことに……)


 端的に言おう。

 酔った勢いで、教え子に手を出してしまった。


 しかも相手は、十四歳の少女。

 今まで我が子のように養い育ててきた、大切な弟子だ。


(お、俺はロリコンじゃなかったはずなのに……!)


 目を覚ますと、俺は息がかかるくらいレイシーに顔を近づけていて、その首には、俺のと思しき歯型がついていた。その痕は今もくっきり彼女の首に残っていて、隠すように付けた包帯が生々しさを物語る。


 言い逃れできない。

 証拠があるんだから。


 昨日は確かに、いつもより多く酒を飲んでいた。

 満月の夜は邪なるモノの元素が濃くなって発作が起こるから、酒でも飲まないとあの痛みに耐え切れんのだ。


(でも、どうして……)


 レイシーは、物音を聞きつけて俺の部屋を開けてしまったという。

 そのときは既に発作は収まっていたようなのだが、気を失っていた俺は目を覚まし、勢いでレイシーに襲い掛かったとのことで……


 全く記憶に無いのだが、レイシーが言うんだからそうなんだろう。


 レイシーは、言いつけを破って扉を開けてしまった。

 でも、それは俺を心配してくれたからだ。

 そんな優しい弟子に、俺は――


(あああ! 俺は、なんてことを……!)


 酒に酔うと、人は己の本性を晒しだすという。

 自覚がないだけで、俺はロリコンだったのか?

 娼館で買ってきた十歳の少女を育て、いい感じになったところで手を出すような外道だったというのか?

 確かに俺は、復讐の為ならなんだってするようなクズ野郎だ。

 だが、こんなつもりじゃなかった。信じてくれ、それだけは本当なんだ。


「死にたい……誰か、俺を罰してくれ……」


 ブツブツと呟いていると、レイシーが洗濯物を手に、二階からたんたん、と降りてきた。


「もう! ダメですよ、死ぬなんて言ったら。私が悲しみます!」


「れ、レイシー……」


 やばい、気まずい。目を見て会話できない。


「おはようございます、お師匠様?」


「お、おはよう……」


「どうしてそんなに視線を逸らすのですか?」


「いや、だって……」


「『だって』、何ですか? お師匠様、私にいつも言いますよね? 『でも』、何だ? って。きちんと最後まで言ってくれないと、わかりませんよ?」


「う……」


 もぞもぞとコーヒーのカップをさすっていると、レイシーは温かい飲み物を手に向かいに腰かける。


「昨日のことですか?」


 びくっ。


「私なら気にしていませんから、そんなに気を落とさないでください?」


「し、しかしだな……俺には師匠というか、親代わりとしてのメンツというか、道徳的にいかがなものかと。ああ、いや。まずは謝るのが先か。その……すまん……」


「謝らないでください。私、嫌ではありませんでしたよ? ふふっ」


「そ、そういう問題じゃない……」


 それも勿論そうなのだが、一番聞きたいことが言い出せない。

 だが、これだけは確認しておかないと……


 俺は唾を飲み込んで、ゆっくりと言葉を絞り出した。


「レイシー、あの……お前、まだ処女――」


「安心してください。私は生娘のままです」


(ほっ……!)


 ああ、よかった、よかった。一線は越えていなかったんだな。本当によかった……

 いや、全然よくねーけど。


「別に、お師匠様になら捧げてもよかったんですけどね?」


「そういうことを、安易に男に言うんじゃない。大人をからかっているのか?」


「え~?」


 冗談まじりに笑うレイシーの様子に、心の底から安堵する。

 だが、いくらレイシーが許してくれたとしても、万一同じことが再び起こった場合、次も無事でいられる保証はない。

 俺は、考えていたことを口にする。


「レイシー。俺と、旅に出ないか?」


「え?」


「考えたんだ。この屋敷という閉鎖的な空間にふたりきりというのが良くないのではないかと。だから、お前が成人するまでのあと二年、各地を転々としながら魔法を教えたいと思う」


「それは――」


「正直に話そう。俺がお前を買ったのは、成人したら『あること』に協力して欲しいからなんだ」


「まさか、結婚……?」


「それはない」


「むぅ……」


「それが何かはまだ言えないが、大人になったら必ず教える。もちろん、お前の身に危険が及ばないように細心の注意を払うし、有事の際はこの魂に替えてもお前を守ると約束しよう。だからそれまでは、俺の傍にいて欲しい」


「も、もちろんですっ! 私は、お師匠様の弟子なのですから!」


 ばたん!と机に手をついて立ち上がるレイシー。

 だが、旅に出る前にこれだけは言っておかないといけない。


「だが……その二年が終わったら、お前は、俺の元を去りなさい」


「え――?」


「『あること』にさえ協力してもらえれば、俺の目的は成就する。そうなると、お前を縛る必要もなくなる。人の社会では成人になれば誰もが独り立ちするものだし、いつまでも俺にくっついていては、嫁に行き遅れるだろう?」


「そっ、そんなこと――!」


「安心しろ、それまでに魔法使いとして必要なことは全て教えるし、そのときは俺の財産の半分をお前にやるから――」


「そうじゃなくて!! 私は――!!」


「お前を買っておいて、身勝手なことを言っているとはわかっている。だが、聞き分けてくれないか?」


 そう言うと、レイシーはぺたんと椅子に腰をおろした。


「…………」


 その顔は、納得していない顔だ。


 無理もないだろう。

 勝手に買われて、勝手に捨てられて。理不尽極まりない。

 レイシーには本当に申し訳ないことをしていると思っている。

 だが、俺が復讐を成した後、生きている保障はない。

 だから、いなくなったときのことは、考えておいて欲しいんだ。


「準備ができたら明日にでもこの家を出よう。なぁに、金のことなら心配するな。二年間、宿屋で過ごせるくらいはある」


 なにせ、魔王城の金庫の鍵は、俺が持っているのだから。


「この二年は、防衛魔法や戦闘魔法に重点を置いていく。外に出れば魔物もいるし、旅には危険がつきものだからな。同時に、道中、魔法使いとしての金の稼ぎ方を実際にやってみるから、よく覚えておくように」


「はい……」


      ◇


 こうして、俺達は住み慣れた屋敷を出た。


 思い出の詰まっているという屋敷を出ることにレイシーは寂しそうな顔をしていたが、元から聞き分けのいい子だ、駄々をこねるということはなかった。

 ウチへ来たときよりも数倍大きくなった荷物を背に、レイシーは尋ねる。


「お師匠様、これから何処へ行くのですか?」


「そうだな、まずは王都を目指して街道に沿っていこうと思う」


「王都?」


 その言葉にレイシーの顔色は曇った。

 王都は、レイシーが幼少期を過ごした娼館があるからだ。

 だが、俺は王都にこそ用がある。そこだけは譲れない。


「ウチへ来たときは馬車を乗り継いだと思うが、今回は急ぐ旅でもないからな、徒歩でゆっくり、街道沿いの町を転々としていくぞ。まずは、ここから数時間歩いたところにあるレーゲンバッハという町だ」


「あ、そこ! 確か『竜神祭』で有名な町ですよね?」


「そうだ。あそこの泉には古くから竜が棲むと言われていて、年に一度、豊穣の祈りを捧げる大きな祭りが行われる。レイシーは水の魔法が得意なようだから、挨拶していってもいいかと思って。よく覚えてたな?」


「だって、前から行ってみたいと思ってたんです、お祭り! お師匠様こそ、私がそう言ってたのを覚えていてくれたのですか?」


「さぁ、どうだろうな?」


「素直じゃないですね?」


「うるさい、行くぞ」


「あ、待って!」


 道中、レイシーの用意したサンドイッチを楽しみに、休憩しながら町を目指す。

 長距離の移動には慣れていないレイシーだったが、幼少期より培われてきた根性と我慢強さのせいか、一言も弱音は吐かなかった。偉い子だ。

 というよりも、お祭りが楽しみでそちらが疲労に勝っていたというのもあるかもしれない。

 急に家を飛び出すことにはなってしまったが、年に一度の祭りに参加できそうでなによりだ。


      ◇


 町に着くと、まず目に飛び込んでくるのは大きな噴水……だと思っていたのだが。見慣れない石像によって、かつて噴水のあった広場は占拠されていた。


「おかしいな……前に来たときは、ここに竜神の噴水があったと思ったんだが。なんなんだ? この悪趣味な像は。おかげで噴水に広がる虹が見れなくなってしまったじゃないか」


「これ、人の像ですか? 誰でしょう?」


 くるりと正面にまわって見上げてみると、その顔は――


「あ。ヒルベルト様ですよ」


「うげっ」


勇者あいつ……遂にこんなもんまでおっ建て始めたのか? 趣味悪。最悪。余計なことすんな。勃てんのは下半身だけにしとけっつーんだよ、全く……)


 大きな石像には殴り潰したい奴の顔。その脳天から、噴水であったことを申し訳程度にあらわす水がちょろちょろと流れ出ている。


「頭から水垂れ流してるよ。宴会芸か? アホみてーだな?」


「お師匠様、本当に勇者様のことキライですよね? 昔、何かあったんですか?」


「それは――」


「でも、一緒に魔王を倒したお仲間なんでしょう?」


「倒してなんかねーよ。あいつはただ仲間を扇動していただけで、実際は――って、レイシー。俺、お前にそんなはなししたことあるか?」


「えっ。あっ。それは――」


 悪魔の口から小耳にはさんだ、とは言えないレイシー。

 キョロキョロとどう誤魔化そうか考えていると、広場の向こうから数人の町人がやってきて、おもむろに石像に金槌を打ち付け始めた。


「このっ! こんなものがあるから、町は日照り続きなんだ!」


「竜神様の噴水を返せ!」


 ガァン! ガァン! と金槌の音が響く。


「いいぞ! やっちまえ! ぶっ壊せ!」


「ちょっと、お師匠様!? 王都からの派遣隊に見つかったら、不敬罪で捕まっちゃいますよ!」


「ああ、王の親衛隊とか言ったか? そんなもんもいたな。前に村にいたときも何回か絡まれたっけ? 全部返り討ちにしたけど」


「既に揉めたことあるんですか!? だって、王様直属の親衛隊ですよ? 実力揃いの精鋭で――って。お師匠様、お強いですもんね……」


「うん」


 とは言いつつも、厄介事にレイシーを巻き込むのはごめんだ。

 早々にその場を退散しようとしていると、通りの向こうから件の親衛隊がやってきた。


「貴様ら! 何をしている!」


「ヒルベルト王の石像になんて真似しているんだ!」


「うっせぇ! この石像ができてから、町は日照り続きだ! きっと竜神様がお怒りなんだ! だから壊すんだよ!」


「親衛隊だかなんだか知らないが、邪魔すんじゃねぇ!」


「なんだと!?」


 一触即発。ここでそろりと急に出て行くのも奴らを刺激しかねない。

 物陰に隠れて様子を伺っていると、奥から町長がやってきた。

 長い白髪に髭をたくわえた、信心深くて物腰の柔らかい老人だ。

 以前町に滞在した際は俺も世話になったのだが――


「やめないかお前たち! 勇者様に失礼ではないか!」


(……!?)


 あろうことか、町長は町人を諌めたのだ。


「町長さん、なんでだよ!? 町長さんだって、竜神様に帰って来て欲しいって、言ってたじゃないか!?」


「いいから、金槌を収めなさい」


 町長に説得された町人はしぶしぶ金槌を下ろす。

 騒ぎを聞きつけた町の人間が集まってくる中、町長は皆の前で頭を下げた。


「親衛隊の皆さま、この度は町の者が勇者様にご無礼を働き、申し訳ございませんでした。町の代表として、謝罪いたします……」


「やめてくれ、町長さん! 俺達は、俺達の信念に従って――」


「つきましては、年に一度の年貢のご報告がございますので、館までどうぞ」


 町人を無視して話を進めた町長は、舌打ちする親衛隊と共に去っていく。

 俺は、町人に話しかけた。


「失礼、旅の者ですが。あの像は何です?」


「ああ、アレは先々月くらいに建てられたヒルベルト王の石像さ。なんでも、周辺の農作物を豊かにする魔法道具だとかで、王都からの命令で、竜神様の噴水を撤去して強引に建てられたのさ」


「でも、町は日照り続きだと聞きましたが」


 訝しげに尋ねると、隣にいた町人がひそひそ声で耳打ちをする。


「噂によると、あの石像が悪さをしていて雨が降らなくなってるらしい。それを止めるには王都に修繕費を払う必要があって、町長は、こっそりお金を払ってるって話だ。竜神祭に必要な、大切なお金を削ってな」


(うわぁ……思ったよりも酷いな、これは)


「なんだそれ。搾取のシステムが完全に構築されているじゃないか」


「え? あ? システム……なんつった? お兄さん、学者先生か何かかい? 悪いが、頭の悪い俺達にもわかるように説明してくれねぇか?」


 わらわらと集まってきた町人に請われ、俺達は反勇者像を掲げる町人の集う酒場にやってきた。そこで、事実を告げる。


「この町は、ヒルベルト王による圧政の被害を受けています。あの石像は決して、豊穣をもたらすものなんかじゃない。先程少し拝見しましたが、僕の見立てではむしろその逆で、水の元素……雨を奪い取るものだ。それを利用し、王都は町から金を搾取しているのです」


「「なんだって!?!?」」


「この町は竜神の加護を受けていたおかげで、周辺に比べると実りが豊かだった。だから、雨を降らせるお抱えの魔法使いが居ない。加えて、魔王が倒されて以降は需要がなくなり、年々魔法使いの数は減っている。だから新しく雇うこともできない。それをいいことに、目をつけられたのでしょう」


「そんな……!」


「僕は旅の魔法使いです。頼まれれば、一時的に雨を降らせることはできる。だが、それでは根本の解決には至らない。やはり、石像を壊すしかないかと」


「ほらな! やっぱり俺達は正しかったんだ!」


「でも、石像を壊そうとすると、町に駐屯している王の親衛隊が……少しずつ目を盗んで削ってはいるんだが、見つかると掴まって殴られたり、酷い目に遭わされる」


「でしょうね。アレを壊されたら、搾取できないですから。見たところかなり頑丈な造りをしていますし、素人に破壊することは困難だ。だから、こうしましょう。僕がその役目を請負います」


「そんな……! いいのか!?」


「旅人という身軽さは、こういうときにこそ役に立つ。通り魔に石像を壊されたとなれば、親衛隊も町人を責めることはできない。むしろ、石像を守り切れなかったことを王に問いただされるのでは? その代わり報酬は弾んでいただきますよ。ざっと、これくらいかと――ああ、今ならおまけで、雨も降らせましょうか」


 金額を提示すると、酒場は一気にざわついた。


「おい、これ……俺達の給料の三か月分はあるぞ」


「親切な人だと思っていたけど、これはさすがに……」


「でも、あの石像を壊すんだ。俺達じゃあ何ヶ月かかってもできるかどうか……」


 その様子を見て、レイシーが耳打ちする。


『あの、お師匠様? さすがに少しぼったくり過ぎでは?』


『何を言っているんだ、こういうときこそ唯一価値を発揮しなくてどうする? 旅人で、且つあの石像を破壊できるだけの実力を持つ魔法使い……そんな便利な人材が安請け合いなんてしてたら、魔法使いというジョブ自体が足元見られかねん』


『でも……』


『いいか、レイシー。誰がなんと言おうと、自分の価値は自分で決めろ。そして、一度決めたなら、その価値に見合った人間であることを心がけなさい。自分を一番信じてやれるのは、自分だけだ』


『お師匠様……今、すごくいいことを――』


『あと、最後に信じられるのは結局、金だ』


『……台無しです』


 レイシーに冷たい目で見られつつも、一歩も譲らず町人の返答を待つ。

 どうやって金を捻出するか口々に話し合う皆に割って入ってきたのは、酒場にやってきた町長だった。


「そのお金、私が出しましょう」


(ほう……勇者側に寝返ったわけじゃなかったのか。となると、さっきは年貢の交渉にでも精を出していたのかな? 相変わらず、責任感の強い方だ)


「ヨハン様、お久しぶりですね。数年前は、勇者様と共に荒れ狂った竜神様を鎮めていただき、ありがとうございました」


「覚えていらしたのですか」


「ええ、多大なる恩義です。どうして忘れることができましょうか」


(ふむ、どうするか……)


 俺のことを覚えている人間がいるのは都合が悪いことを、失念していた。


 仕方ない、物事はケースバイケースだ。

 レイシーに『自分の価値は自分で決めろ』と言った手前、値下げするのは恰好が悪いが、ここは臨機応変に。買収しよう。


「町長様には、以前宿に無料で泊めていただいた借りがある。他でもないあなたからの依頼であれば、報酬は半額にいたしましょうか」


「よいのですか?」


「ええ。その代わり――」


 俺はこっそりと町長だけに聞こえるように、耳打ちをする。


『僕がこの町を訪れたこと。生きていることは、内密に……』


『え?』


『王都では、僕は死んだことになっています。存在が知られると、少々面倒なのですよ』


 よくわからない、といった表情を浮かべていた町長だったが、そこは年の功。物分かりと察しの良さは抜群に良い。込み入った事情があると物憂げな顔をすると、『必ず、秘密にいたします』と納得してくれた。

 そうして、町の人には、俺のことはヨハンではなく適当な偽名で紹介してくれたのだった。


「それではヨハネス様、決行は竜神祭の前日。明日の夜でよろしいでしょうか? 石像が撤去できれば、竜神様もきっと祈りに応えて下さり、お祭りにお姿を現わしてくださると思うのです。急なお願いで申し訳ないのですが……」


「構いません。ですが、前夜祭である『雨降りの儀式』の方はよろしいのですか? 石像破壊の後では恐らく現場が混乱します。事態を収拾するのに一晩は欲しいのですが……」


「それはさすがに諦めるしかないかと思っています。町の現状を思えば、竜神様には祭り当日に来ていただければ、十分すぎるくらいだ」


 さも残念そうに肩を落とす町長。元より彼は信心深い人物だった。できることなら前夜祭も行いたいはずだ。それは、酒場にいる面々も一様に同じ顔つきをしていた。


「では、雨降りの儀式を行ったあとに石像を破壊するのはどうでしょう? それなら祭りには一切の支障がない。後片付けを急ぐ必要はあるので、少し大変ですが」


「それは願ってもないお話ですが、石像がまだあるのに雨を降らせることなどできるのでしょうか?」


「それはまぁ、コツさえ掴めば。今年の巫女様はどちらに? 石像に阻害されずに雨を降らせる秘訣を教えましょう。竜神がまだこの町にいるのなら、本気を出せば石像なんかに負けるはずがない。きっとできるはずだ」


「それが、石像ができて竜神様の噴水が壊されたことで巫女の一族は怒り、町を出て行ってしまわれたのです。竜神教の本部に、この件を告発するように申し出るとかなんとか。それ以来、町は干ばつに襲われ……」


「ああ、そういう……」


(巫女が不在では、竜神と対話し、雨を降らせる人間が……)


 俺はふと思いつき、隣で話に聞き入るレイシーに視線を向けた。


「レイシー」


「はい?」


「俺は、あんなスケスケでフリフリの巫女服なんぞ着たくない。魔法で女に化けるのもごめんだ」


「えっ?」


「お前がやれ」


「えっ? えっ?」



 後半につづく

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