日常の中の非日常


 昼休み。俺たちは四人で一緒に屋上で昼ごはんを食べていた。別に教室でももう問題はなさそうだけど、屋上特有の開放感にはまってしまってここで食べている次第だ。まあ、いまだにバレてないし問題ないだろ。


 「そういえばさ、もうすぐ俺ら試合だけど浜地さんは宏樹の応援しに来るの?」


 「え!? え、えっと……」


 そんな中で、ふと浩一がそんな質問をユキに投げかけた。ユキはあたふたし始めてまともに答えられてない。


 「いきなりすぎる質問でしょ。そもそも宏樹は浜地さんに試合にこと言ってるの?」


 「……い、いや……」


 キスをし始めたあの日、見にきて欲しいと言いかけた。だけどそれはユキを苦しめるだけだと思って言わなかったけど……今こうして学校に通って、一緒に昼ごはんを食べているから……言ってもいいのかな?


 「え、そうなのかよ。おいおい宏樹……せっかく先発として出れて、いいとこ見せられるチャンスなんだぜ? ああ、試合中の宏樹めっちゃかっこいいのになあ!」


 「お、大げさなことを言うな! フォワードのお前と比べて俺は目立つようなポジションじゃないし……かっこいいところは……」


 「……そんなことない、宏樹はかっこいいよ。誰よりも冷静にプレーして、チームを安定させてるのは間違いなく宏樹だから。だから自信持ってよ」


 自分を卑下してしまったら、紫が真面目な表情で嬉しいことを言ってくれた。ここまで俺のことを褒めてくれるなんてちょっと意外だったけど……素直に嬉しいや。


 「ありがと紫。紫にそこまで言われたら自信を持たないわけにはいかないな」


 「そ、そうでしょ! だからシャキッとして、試合でも活躍してよ!」


 「ああ、もちろん」


 「え、俺も褒めてよ」


 「あんたはもっと走れ。前線での守備意識が低すぎ」


 「辛辣……。で、浜地さんはどう? ここまで紫が褒めてる宏樹のプレー見に行きたいでしょ?」


 その問いかけに、ユキはモジモジとしながらも……俺の方を見て、こう言った。


 「……見に行きたい。ヒロくんのかっこいいとこ……見たい」


 「……! ああ、ぜひ見にきてよ!」


 ユキは頰を赤くしながらも、ニコッと笑ってそう言ってくれた。それにも俺も思わず笑みを返してしまう。そりゃあ……やっぱりユキには見にきて欲しかったから。


 「決まりだな。あ、でも席とかないから場所取りとかしておいた方がいいのか?」


 「……それならあたしが浜地さんと一緒に見てるよ。どうせベンチにいられるのは先輩のマネージャーだけだし。……浜地さんはどう?」


 「……う、うん。ありがとう林原さん」


 「俺からも。ありがとう紫、色々とユキのためにしてくれて」


 「そ、そりゃあ……友達だからさ。これぐらい当然だよ。あ、てかそろそろ食べ終わらないと間に合わないじゃん」


 「ほんとだ、よし急いで食べるぞ!」


 それから俺たちは急いで昼ごはんを食べて、教室に戻ろうとした。ただし、二人をわざと先に行かせて、階段を下った二人から見えないところで俺たちは……。


 「はぁ……んんっ……れろっ……ひ、ヒロくん…………んんっ……ちゅっ」


 今日も二人に隠れて、キスをしていた。どうしてこんなリスクの高いことをしているのか、さっぱりわからない。放課後、時間の空いた時に誰にも見られない場所でこっそりすればいいじゃないか。今でもそう思う。


 だけど……初めて四人で食べた時にこっそりしたキスが、ユキは気に入ってしまったようで…………俺はその願いを叶えている。


 どうしてユキがこんなことを気に入ったかなんてわからない。だけど俺は……ユキの願いを拒めないから。それだけの理由だけど、俺はユキとこうしてキスをしている。


 「ちゅっ……んんっ……はむっ……れろっ……ヒロくん……どう?」


 「……はぁ……はぁ……ど、どうって……」


 頰を赤くしながら俺だけを見ているユキに、初めてキスの感想を聞かれた。なんて返すのが正解なのかはさっぱりわからない。だけど正直にいえば……。


 「……すごく……気持ちいい……」


 この甘美な快楽は、その言葉でしか表せなかった。こうして一緒にキスをし始めて数日経っているが、ユキは日に日にキスが上手くなっていて……正直、ここが学校でなければ理性を保てているのか……わからないぐらいだ。


 「……よかった。じゃあ……もっとしよ?」


 その返答を聞いたユキは、妖艶な笑みを浮かべながら……もっと、激しくキスをしてくれる。


 「ちゅっ……ちゅ、ちゅ……んんっ、れろっ……れろれろっ……ちゅ、ちゅ、ちゅ」


もう頭は真っ白で、何も考えられない。このまま快楽に溺れてしまいそうなぐらいに、このキスは気持ちよくて…………。


 「おーい二人とも、忘れ物でも取りに行ってるの?」


 だけど、パンっと頭の中が破裂したかのように紫の声が俺を正気に戻す。そうか、俺たちがいないことに気づいてここまで来てくれたのか。すぐに平然を取り繕わないと……バレちゃまずい、これは絶対バレたら……だめだから……。


 「……私だけを……見ないとダメだよ……ヒロくん……ちゅっ」


 「!?」


 ユキはやめる直前、ニコッと天使のような……笑顔を向けてキスをして……俺は立てなくなってしまった。どういうこと……なんだよ。ユキは一体どう思ってそんなことを……。


 「おーいって……あれ、宏樹どうしたの?」


 「あ、あの……ヒロくん具合が悪くなっちゃったみたいで……ここで休んでもらってたの……」


 ユキは嘘をついた。どんな顔をして紫にそう言っていたのかは、廊下の床を見ていた俺にはわからないけど……きっと、普段と変わらない、おとなしい感じで言っていたんだろう。


 「そうなの? じゃあ保健室連れて行かないと」


 「え、えっと……私が連れて行くね。私一人でも……ヒロくん連れて行けるから」


 「え、でも一人じゃ大変だし……」


 「……大丈夫、だよ」


 「そ、そう? ……な、なら任せるね。宏樹、ちゃんと元気になってね、練習無理そうだったらあたしに連絡してね」


 そう言い残して、紫はこの場を後にした。どうしてこんな嘘をついたんだ、それに保健室に運ぶだなんて嘘までつく必要は……。


 「……ヒロくん」


 廊下に座る俺と同じ視線になるため、ユキも座って俺の顔を見る。そして……ニコッと笑って、ユキはこう言った。


 「これでもっと…………キス…………できるね」


 その言葉にも驚いた。だけど同時に……


 「…………うん」


 それに頷いた、自分にも驚いた。そして俺たちは…………5時間目の授業をサボって、ずっとここで…………


 「ちゅっ……んんっ…………んむっ……ヒロくん…………ちゅぅ、ちゅぅぅぅ……んんっ、んんんっ…………」


 5時間目が終わることを告げるチャイムが鳴るまで、キスをし続けた。


 ――――――――――――


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