幼馴染の好きなこと


 「ねえ、浜地さん。なんの本読んでるの?」


 1時間目が終わった後の休み時間。何やら小説を読んでいたユキに紫が話しかけていた。昨日言っていたようにユキと仲良くなるために話しかけたんだろう。何もしないで仲良くなる人なんていないからな。


 「え、えっと……そ、その……」


 ユキは話しかけられたことにびっくりしたようで、あたふたとしてしまう。それでもなんとか紫と喋ろうと頑張っているようで……。


 「だ、大学生の人と年下の管理人さんが結婚するお話……だよ」


 「へえ! ロマンティックな話が好きなの?」


 「う、うん……」


 「わかるわかる。あたしも結構恋愛ドラマとか見るし。じゃあ今度その小説読んでみるね。タイトルは……「年下の可愛い管理人さんが、俺の奥さんになるまで」ね。図書室にあるかな?」


 「わ、わかんない……わ、私本屋さんで買ったから……」


 「オッケー。んじゃあたしも買ってみよっと。読んだら一緒にお話しよー」


 「う、うん……」


 二人の会話を聞いていると、ところどころぎこちないところがあるものの、それでもなんとか話せている……気がする。実際のところ、本人たちがどう思っているかはわからないけど。


 「お、紫が浜地さんと話してる。俺も話してきたいなあ」


 二人の会話を隣で聞いていると、浩一もやってきた。


 「浩一はまだダメ。紫相手でもまだ緊張してるっぽいし」


 「へーそれは意外だ。紫相手にそれだと俺喋ってもらえないんじゃないか?」


 「ま、そもそも浩一は女子に人気ないもんな。いっつも汗と食べ物の匂いがきついから」


 「な! それをいうんじゃない! だってシーブリーズ買う金があったら食い物買えるだろ」


 「マジかよお前……その食い意地はどこからきてるんだか。……あ、チャイムなった」


 浩一とくだらない会話を交わしているうちにチャイムがなってしまった。話している最中二人の会話は聞けなかったが、まあきっと紫がうまくやってくれていると思う。ああ、次は数学か……めんどくさい。


 それから数時間後、昼休みに入った。


 「じゃあ屋上行こっか、ユキ」


 「う、うん!」


 まださすがに距離が縮まったとは思えないので、今日も俺はユキと一緒に屋上でお昼ご飯を食べることにした。今日も今日とて屋上には誰も人がおらず、開放感に満ち溢れた場所だ。


 「きょ、今日はお弁当……も、持ってきたよ。わ、私が……つ、作ったの」


 ユキがパカッと弁当箱を開けてそういった。お弁当の中身は可愛らしく、たこさんウインナーとかが入っていて……これを自分で作ったってのはすげえ。俺には到底できない。


 「本当に!? すごいなユキは!」


 「あ、ありがとうヒロくん……。き、昨日おかずもらったから……は、はい、これ」


 「く、くれるのか? このたこさんウインナー」


 「……うん」


 ユキはこくりと頷いて、俺にたこさんウインナーをくれた。もらった俺は早速それをもぐもぐと食べる。……ああ、美味しい! ユキってこんなに料理が上手だったんだな……知らなかった。


 「すごく美味しかったよ。ユキ、料理が上手だったんだね」


 「そ、そんなことないよ! た、たまたまうまくいっただけで……」


 「いやいや、ユキの実力だよ。料理とかしてたの?」


 「う、ううん……ひ、ヒロくんに食べさせてあげたかったから……昨日家で練習してたの」


 「……ま、マジか。う、嬉しい……」


 頰を赤くしながらそんなことを言ってくれたユキを見て、俺も顔が赤くなる。そりゃだってユキが俺のために料理を頑張ってくれたって知ったら……嬉しいに決まってるじゃないか。


 「ありがとうユキ。俺のためなんかに」


 「そ、そんな……だ、だって私は………………う、ううん、な、なんでもない。ヒロくんは私のために色々してくれたから……これぐらい大したことないよ」


 何かを言いかけてはそれを取り消して、当たり障りのないことをユキはいう。何を言いかけたんだろう。それが気になってしまうけれど……それを聞く勇気は、俺にはなかった。


 「そ、そっか。そういえばユキ、休み時間に本読んでたけど、小説とか好きだったんだね。俺、全然ユキの好きなこと知らなかったよ」


 「ほ、本は好きだよ。家にいた時も……いっぱい読んでたから。でもね……こうやってヒロくんと一緒にいることも……好き」


 「……え、えっとそれは……」


 「……ねえヒロくん、今日の分のキス……しよ?」


 俺が質問をしているのなんて御構い無しに、ユキは今日の分のキスをお願いしてくる。……どのみちきっと答えは返ってこないか。それに……このキスは約束だ。しなくてはいけない……ことだから。


 「……うん」


 「……ありがとう」


 俺が頷いて承諾すると、ユキはお礼を言って、頰を赤くしながら……。


 「んんっ……ちゅっ……ひ、ヒロくん…………ちゅ、ちゅっ」


 今日も、キスをした。いい加減なれるものかと思ったけど……なんだか、昨日よりもユキが激しくキスをしている気がして……相変わらず俺はやられっぱなしだ。


 「んんっ…………ヒロくん…………んんっ…………れろっ」


 「っ!?」


 そして、今日はただキスをするだけじゃなかった。初めて……ユキが舌を絡めてキスをしてきた。それで俺は思わず驚いてしまったけど……なんだか、自然とそれを受け入れてしまって……そして、とても気持ちよかった。


 「んっ……はぁぁ……はぁぁ……あむっ」


 さらに三度目にキスだからか……お互いにキスに慣れてしまったからか……昨日よりも長く続けられて……俺はもう、頭が真っ白になって、何も考えられなくなって。


 だけどそれでも……ユキのことを、今すぐにでも抱きしめたくなるその衝動だけは……理解できた。


 「……ぷはぁ…………はぁ……はぁ……ひ、ヒロ……くん……」


 「……ゆ、ユキ……」


 ユキの限界がきて、キスが終わる。妖艶な空気の中、お互いに顔はもう真っ赤になって、息を切らしていた。俺の身体はとことん熱くて、視界ももう……今の俺に見えるのは、ユキだけ。


 「…………熱い……ね」


 ユキも同じく身体が熱いのか……上着のブレザーを、脱ぎ出す。別に大したことない。暑ければ脱ぐ、寒ければ着る、それがブレザーだ。なのに……なのに……俺は……。


 「……ゆ、ユキ……」


 衝動が、もうすぐ溢れ出してしまいそうだ。これはただの約束事、それ以外の意味なんてないってのに……。


 「…………ヒロくん……」


 止めて欲しい。今すぐ、嫌だと言って欲しい。そうすれば俺は理性を取り戻せるはずだから。だけどユキは……まるで、物欲しそうな顔で、俺のことをまた呼ぶ。どういうことなのか、なんて考える余裕はなかった。身体が勝手に動き出してしまいそうだった。


 「……チャイムだ」


 だけど。運良く、チャイムが鳴ってくれた。それでなんとか俺は我を取り戻せて……ユキを抱きしめることも、それ以上のことも起きなかった。本当に良かった、良かった…………。


 「ご、ごめんユキ…………」


 「……謝ることなんて、ないよ。戻ろっか……ヒロくん」


 「……ああ」


 お互いに、気まずい雰囲気の中で、それでも普段通りを頑張って振舞い……教室も戻っていった。


  ――――――――――――


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